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#13 夢心オーロラ

近藤文夫 / てんぷら近藤

近藤文夫。天ぷらに革命を起こし、天ぷらに生涯をささげた料理人。
71歳になった今も鍋の前に立ち続ける。

近藤さんが天ぷらに革命を起こしたと言われる所以。
それは今や当たり前となった、“野菜の天ぷら”を世に広めたこと。

そもそも天ぷらは、江戸の昔に鮮度の落ちた魚をおいしく食べられると広まった料理。つまり、魚以外を天ぷらにする発想自体がなかったのだ。

「フランス料理も、中華料理も必ず野菜を使う。天ぷらだけ野菜を使わないのはひとつの料理として成立していないのではないかと思った。」と近藤さんは話す。

近藤さんが作る天ぷらの美しさは、もはや食べる芸術。
細切りにしたにんじんは花のように美しく揚げられ、厚切りにしたじゃがいもには大胆に白米を合わせる。
セオリーに固執しない柔軟な発想と確かな技術から生まれる天ぷらは、まさに唯一無二。

油の温度や揚げ時間を変え、素材のポテンシャルを最大限に引き出す。
勘ではない。すべてが計算の上に成り立っている。

中でも真骨頂と言われるのが、サツマイモの天ぷら。
油から顔を出すほどの塊の状態のまま揚げる。
時間をかけ、じっくりじっくりと火を入れ、転がしながら揚げること30分。
油から取り出した後、ペーパータオルでくるみ、さらに10分、余熱でゆっくりと蒸らす。
40分かけ、完成したその天ぷらは、香ばしさとほっくりねっとりとした食感が両立した、サツマイモの甘味、旨味が閉じ込められた極上の一品。


こうして50年、試行錯誤を重ね、いくつもの技を体得して作り上げた天ぷら。しかし、近藤さんはそのレシピを惜しみなく公開する。
また、若い料理人たちを育てるためなら、自ら出向き、極意を余すところなく伝授する。

「人間は狭い見方ではなく、広い見方をしないと前に発展していかない。
美味しいものを作りたいと思ったら、ただ単純にこれでいいんだと思って、揚げていたら美味しいものではなくなっていくし、素材にも失礼。絶えずチャレンジしていく。それが自分の天ぷら。」と話す。


そんな近藤さんの未来へ遺すべき作品も新しい天ぷらへの挑戦だった。

作品の主役はもちろん野菜。
たくさんの野菜の中から、近藤さんは天ぷらではあまり見かけない大和芋を選んだ。旬を迎えた最高の状態の大和芋を使って、誰もが驚く作品に仕立てたいと考えた。

天ぷらに大和芋を使うのは初めて。
長年の経験から生まれたアイデアは、海の幸と山の幸の融合。これまでにない天ぷらの形だった。

山の幸、大和芋と合わせる海の幸は甘鯛。
開いた甘鯛に、千切りにした大和芋、にんじん、菜の花、アクセントにわさび。真心をこめ、しっかりと巻き、山海の幸を一体にして、油の中へ。
最高のタイミングでとりだした。仕上げは長い職人人生の中で培った、あの“蒸らし”。

蒸らすことでそれぞれの食材から出てきた水分を同化させ、甘鯛と大和芋の旨味と香りを閉じ込め、今までにない新しい天ぷらを完成させた。

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未来へ遺すべき作品作りを通して、近藤さんが伝えたかった想い。

それは、今が良ければよいということでなく、未来はこういう考え方が必要になるのではないか、という未来を想う気持ち。今の常識にとらわれず、新しいものを作り続けて欲しいという、近藤さんからの未来の料理人へのエールでもあった。

自分たちのことだけを考えていては未来はない。

未来の食の追及には終わりはない。これでいいんだと考えるのをやめれば、変化に対応できなくなる時がくる。これからどうするかをという視点をもって考え続けることの大切さを教えてもらった一皿でした。


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