#3 Esprit
鎧塚俊彦 / Toshi Yoroizuka
パティシエ鎧塚俊彦シェフ。
日本でまだパティシエという言葉が一般的ではなかった時代に単身ヨーロッパへ。日本人として初めて三ツ星レストランのシェフパティシエに任命されるなど、これまで常に新たな時代を切り開いてきた。
そんな鎧塚シェフの真骨頂といえば、お客さんの目の前で芸術品のような一皿を作り上げるLiveデザート。その日、その時、その場でしか味わえないものがデザート。だからこそ、鎧塚シェフは、その瞬間に味わえる一番おいしいものをお客さんと一緒に構築していくことに全力を尽くす。
今回、鎧塚シェフは未来へ遺すべき作品に、自らの原点と言える素材「カカオ」を選んだ。
実はシェフにとって、カカオは自信のない食材だった。
29歳でヨーロッパに渡った当時、日本にはショコラティエはいなかったが、世界にはカカオの神様のようなショコラティエがたくさんいて、負い目があり、自信が持てなかった。
どうすれば勝てるのかを考え抜き、一から全力で育てたカカオであれば自信をもってお客さんに出せると考え、2010年、長年の夢であった南米エクアドルにカカオ農園を開設した。
カカオ豆一粒を作るところから始めた鎧塚シェフが大事にしているのは、何よりも人。農作物にとって土や気候ももちろん大事だが、誰がどういう想いを持って作っているかがわからないとデザートは薄っぺらいものになる。パティシエだけではなく生産者の想いも乗せることで厚みのある、いいものが出来上がっていく。
そうして完成した未来へ遺すべき作品も、Liveデザート。
「まだ、何を作るか決めていない。やり取りも楽しみながら、作り上げていきたい。職人気質、音楽でもなんでも機械を使えばいいものができるが、そうではないものを未来へ遺したい」と話した鎧塚シェフ。
最初にでてきたのは、エクアドルのYoroizukaファームのチョコレート。
通常のチョコレートは40分ローストするところを、5分しかローストせず、旨味はもちろん雑味かもしれないものまで素材の持つ個性として引き出した、シェフ曰く”やんちゃなチョコレート”。
このチョコレートはやんちゃで扱いづらい。しかし、ゼロから作り上げることによって愛着がわき、技術を超えたものが出来上がる。くちどけの良いものだけがおいしいというわけではなく、この個性もひとつのおいしさの形、とわが子の成長を喜ぶ親のような顔でシェフは話す。
次にとりだしたのは、試験場で自ら探してきた新品種の夏秋いちご。
それに負けない牛乳として選んできた、最低限の殺菌だけをした搾りたての原乳。この2つを組み合わせ、この上なく新鮮ないちごミルクソースを作った。
やんちゃなチョコレートのまろやか感、とんがり感に、このいちごの酸味を合わせ、それに負けない原乳・・・と構成し、最後にベールのような飴でつつみ、見た目にも美しく仕上げた。
美しい、きれいだけでなく、作り手の想い、熱い気持ちが入ることで勢いがでるという、まさに鎧塚シェフの言葉通りの作品が完成した。
機械化が進み、世の中はどんどん便利になっていくが、人の魂、想いなしには心に響くおいしさは生まれないのかもしれない。未来の食を豊かにするのは、技術・機械だけではなく、人であることを改めて気づかせてくれた一皿でした。
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