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自給自足中心でより満足のいく味を目指す

笹森通彰 / 弘前「オステリア エノテカ ダ・サスィーノ」 オーナーシェフ

生産者の方々がどういう思いで食材を作っているのか、どれぐらい苦労があるのか、それがわかっていれば「いただきます」という言葉の意味がしっかりわかってもらえるでしょうし、無駄を出さないということにも繋がると思います。

自給自足に拍車をかけた地方での食材調達事情

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笹森さんは東京のイタリア料理店を経て、2000年に北イタリアのヴェネト州内陸部にある二ツ星レストラン「ドラーダ」で働き始める。イタリアに行く前は二ツ星や三ツ星レストランは、イタリアはもちろん世界中から最高の食材を集めて料理を作っていると思っていたが、そうではなかった。

「日本でなにかの本を見て「ドラーダ」を知ったんですが、自家菜園でチーズも自分たちで作っている。自分が行きたい方向はこれだと思いました」

「ドラーダ」は笹森さんがやりたいと思っていたことを、ほぼ全てやっていたレストランであり非常に濃密な時間を過ごせたという。3年に渡るイタリアでの修行を終え、2003年6月に地元青森県弘前市に「オステリア エノテカ ダ・サスィーノ」をオープンする。当時から目指していたのはイタリアで学んだ自給自足のスタイル。現在は自家菜園でハーブや野菜、果物を育てており、生ハムやサラミ類やチーズも自分で作っているが、それは帰国直後におきたあるできごとがきっかけだった。

「弘前にレストランをオープンしたばかりの頃に、東京からイベリコ豚を取り寄せたところ、届いた豚肉はすでに糸を引くほど腐っていたんです。一番いい食材は東京の有名店では手に入るけれど、地方には回ってこない。これが現実なんだと気づきました」

イタリアから帰国後、すでに自家菜園を始めていた笹森さんだが、このできごとがきっかけで、より本格的な自給自足を目指すようになる。


ポイントだけ外さずにその土地にあった製造法を

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「昔からチーズを自分で作りたいと思っていたのですが、当時自分はパスタシェフを任されていて忙しかったので、チーズ作りは遠くから眺めているだけでした。でも見ているとレシピはあるんでしょうけどガチガチに縛られているわけではない。結構適当だな、でもこれでいいんだな、と思うようになりました」

「ドラーダ」に続いてトスカーナ南部にある「アルノルフォ」での修行時代には、休日を利用して3ヶ月間肉屋に通い、生ハムやサラミ類など様々な加工肉の技術を学ぶようになった。

「その頃は生ハムとかいろいろ作り方を見て、実際にもやらせてもらいましたけどチーズと同じなんです。塩は何パーセントで湿度はどれぐらいとか、細々質問しているとこういわれました。「日本でレストランやるのならこの作り方が正しいかどうかはわからない。もう少し大きく考えた方がいいんじゃないか?

大きく考えるとはなんだろう、と自問自答した笹森さんは、生ハムもチーズもそしてワインも何千年も前から作られて来たものだし、ポイントだけ外さずにその土地にあった製造法を覚えればいいのだ、という結論にたどり着く。弘前に帰ったら自給自足のレストランを開きたいというビジョンを持っていた笹森さんは、イタリアからたくさんの野菜の種を持って帰国する。


お客様をもっと土に近づけたい

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笹森さんは3年前に「食の現場からテーブルまで」をいうイベントを企画。これは参加した親子を牧場に連れて行って乳搾りを体験させたあと、ともにチーズ作り、そのチーズを使ったピッツァを全員で作り、畑でとった野菜でサラダを作って食べるという内容だ。

「本当に自分が毎日やっていること、種を植えて野菜を収穫して下ごしらえして食べていただく、ということの実体験です。現場を知らない人たちに知ってもらえれば、生産者の方々がどういう思いで食材を作っているのか、どれぐらい苦労があるのか、それがわかっていれば「いただきます」という言葉の意味がしっかりわかってもらえるでしょうし、無駄を出さないということにも繋がると思います」

食事は大切、きちんとした食材を使って料理し、食べてもらいたいという思いは子供が生まれてから一段と強くなったようだ。

笹森さんがあたためている究極の夢は現在の「オステリア エノテカ ダ・サスィーノ」を自宅に移転し、自給自足のスタイルをつきつめた、畑との距離が近いレストランを最終形態にしたいという。

お客様を生産の現場、特に畑に近づけたいんです。平たくいえば農家レストランですが、来ていただいたらまず自家製のスパークリング・ワインを注いで畑にご案内し、キイチゴを自分でとってグラスに入れていただく。野菜も今まではお客様が来る前に畑に取りに行っていましたが、農家レストランならば料理を盛り付ける直前に取りに行けます。さっきまで畑に生えていた、より新鮮な野菜を使うことができるのです」

農家レストランというサスティナブルな取り組みは生産の現場・お店・お客様がより密着することで強固になるという事か。農家レストランにしたいという理由のひとつに、もっと子供たちと畑で過ごし、自分が作った料理を食べさせてあげたい、そういう希望がある。

「正直自分はいつも走り回っていて、子供たちに自分の料理を食べてもらうとか、一緒になにかするとか、なかなかできないんです。ですから農家レストランは早くやらないといけないと思っています。そうしないと子供たちも他のことに興味が湧いちゃうし、いまのうちにそういう時間を共有したいと思うので早めに実行したいんです」

食の未来を担う子供たちへの情熱も熱い。


■プロフィール

笹森 通彰(ささもり みちあき) 1973年青森県弘前市生まれ。仙台のイタリア料理店で料理に目覚め3年勤める。その後3年間、都内の有名店などで修行し、2001年1月に渡伊。ミシュラン二ツ星レストラン「ドラーダ」、「アルノルフォ」をはじめ各地で2年半修行。 2003年6月帰国。同年8月、30歳を機に、弘前にイタリアンレストラン「オステリア エノテカ ダ・サスィーノ」をオープン。料理だけではなく、自ら野菜や生ハム、チーズ、ワインまでを素材から作り出す姿勢が全国から注目され多数のメディアに取り上げられる。

取材日/2019年7月

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