#44 Hommage Hakodate 恵山のエゾ鮑のパイ包み焼き
菊地美升 / ル・ブルギニオン
今回の主人公は、ル・ブルギニオン、菊地美升シェフ。
「ずるいほど、笑顔がかわいい」
優しい人柄がにじみ出るその笑顔と、伝統的なものを守るしっかりした料理のバランスがシェフの魅力。
1966年北海道函館で商店を営む両親のもとに、三人兄弟の長男として生まれた菊地シェフ。
高校卒業後、専門学校を経て、料理の道へ。
「学校で1年勉強しただけですから、知識や技術も何もないまま、ただフランス料理の料理人になりたいと思って、入りましたけど、食べたことも実際なかった人間が入ったら、仕事にはついていけないですし、毎日シェフや先輩に怒られていました」
そんな菊地シェフを救ったのが、まかないだった。
「できなかったことが少しずつできるようになって、ちょっと楽しくなってきた」
そうして劣等生だったシェフは、まかないでフランス料理の基礎を覚え、礎を築いていった。
菊地シェフは、ベテランになった今も、初心を忘れない。
毎年、夏休みを利用して、フランスへ。若手に混じって、皿洗い、下ごしらえなんでもやった。
コロナの影響で渡航が困難になっても、研修欲が抑えきれず、学びの場を国内に求めた。
研修先は「かんだ」など名店だけではなく、縦社会の料理界であっても、学びのためなら、かつての教え子に頭を下げることをいとわない。
こうして、菊地シェフは刺激を受け続け、進化し続けている。
なぜここまで貪欲に料理を追及するのか。
その理由は、2009年から延べ12年保持し続けたミシュランの星を落としたこと。
「悔しかったです。残念でした」
と語る一方、
「ただ、やっぱりミシュランってちゃんとみているんだなと思った」
「昨年と一昨年は、コロナのせいにするわけではないですが、料理にちゃんと向き合えていたかといわれると、今までとは明らかに違うんですよ」
緊急事態宣言、経営難によりコスト削減・・・料理に迷いが生じた。
一番大事にしていたものまで、奪われた。
ル・ブルギニオン = ブルゴーニュの人々、ブルゴーニュ風の
この店名には、菊地シェフの料理人としての原体験、原風景が詰まっている。
「毎週末になると友達が誘ってくれて、ワイナリーに訪ねていって、テイスティングをしたり、食卓に招いてもらって食事をしたり、楽しい想い出がいっぱいあるんですよ」
「フランスでのそういう楽しい時間をお客さんにもここで過ごして欲しい」
もう一度純粋に料理と向き合おうと決めた菊地シェフが作りあげた、未来へ残すべき一皿。
「喜んでもらえるものを作りたいですね」
と話したシェフが向かった先は、故郷、函館。
幼いころから食べることが好きだった。
シェフになった今でも大切にしていることがある。
それは「ふくあじ」。
「ふくあじ」とは、ただおいしいだけではない、思わず笑顔になれる幸せの味。
「みんな、そこに戻ってくると思うし、それが一番ですよ。お客さんをお見送りして、楽しそうに帰って行ってくれることが嬉しい」
菊地シェフにとっての「ふくあじ」、その根っこにあるのは大好きな母の手料理。
故郷で料理人としての原点を見つめなおした菊地シェフが完成させた、未来へ遺すべき作品。
Hommage Hakodate 恵山のエゾ鮑のパイ包み焼き。
北海道で仕入れた魚のアラを香ばしく焼き、鍋の底についた魚の旨味をはがして、蒸してを繰り返す。
そこにいかの下足、ほたてのひも、えびの殻、香味野菜を加え、1時間近く炒めたら、水、トマトを加えじっくりと煮込んでいき、それを丁寧に濃し、旨味を余すところなく抽出したら、ソースは完成。
次にとりだしたのが、函館で栽培されている王様しいたけ。旨味の強いしいたけと、野菜のだしで2時間、柔らかく煮た蝦夷あわび、ほうれん草、ホタテのムースをパイで包み、焼き上げた。
シェフが未来へ遺したかったもの、それは、何世紀にもわたって受け継がれてきたフランス料理の楽しさ、そして、口いっぱいに広がる「ふくあじ」だった。
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