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発売まで4年「まるごと豆粉パン」 ZENBブレッドを生み出すまで

R&Dチームの水田と申します。まるごと豆粉パン「ZENBブレッド」の商品開発を担当したチームを代表して、ZENBブレッドの開発スタートからのお話をさせて頂きます。



ZENBブレッドR&Dチーム 
左から、斎藤雄己(原料開発担当)、市川絵梨(味づくり担当)、後藤生也(容器開発担当)、富田貴彦(味づくり・量産化担当)、水田瑛里佳(味づくり担当)、水野博文(量産化担当)

次なる新主食へのチャレンジ

2019年、新入社員だった私が担当となったのは、ZENBヌードルの次なる商品としての「豆を活用した新しい主食」の開発というテーマでした。

ZENBヌードル同様に「誰もが我慢せずに食べられる、食べれば食べるほど健康になる新しい主食」を生み出そうということは決まっていましたが、当時はまだブレッドというテーマすらなく、お米のようなものを作ってみたり、お好み焼きやケーキのようなものを作ってみたり、色々な試作品にチャレンジしている状況でした。その中でも市場が大きい「パン」は注目度が高いカテゴリでした。もしパンが豆でできたらすごいね、と失敗作の試作品であっても、議論が熱くなっていたように思います。

そんなある時、いろいろな情報収集して得た知識をヒントに作ってみた生地をカップに入れて焼いてみたら、豆粉の使用であっても少し膨らむ傾向がみられました。これがきっかけとなり、「ブレッド」のテーマが誕生。ミツカンに入社してパンを担当することになるなんて、思いもよりませんでした。

ブレッドチームができたとはいえ、私も含め、パン作りの専門知識は誰もありませんでした。とにかく勉強するしかないと、本を読んだり、パン屋さんや専門家にお話を聞きに行ったり、少しの間ですがパンの学校にも通ったこともありました。初めはホームベーカリーも使って試作をしていましたが、それでも当然上手に作れる訳はなく・・・

黄えんどう豆は、生の状態だととても青臭いです。この臭いの抑え方も手探りだったので、初期の試作品は、食べたら気持ちが悪くなるほど風味が悪い物でした。また、食感に関しても、とてもパンと呼べるものでは無くて、ボソボソと乾いたカステラのような、不快で、もういらないと言いたくなるような品質でした。

ワッフル製法の挫折

開発初期は現メンバーの水野さん含め3人で取り組んでいました。配合や、製法、成形方法、調べては試しの繰り返し。オーブンで焼いても小麦のパンの様には全然膨らまないし、美味しくないし、豆粉のパンは無理なのかなと思った日も正直少なくありません。

そんな中でも、豆粉はよく加熱する事で甘みや風味の改善が出来ることが分かって来ました。油で揚げてみたり、豆だけをオーブンで焼いてみたり。

この特性をブレッドの製法に活かせないか、そうやって行きついたのが「ワッフル製法」でした。ワッフルのように生地をはさんで焼き上げると、やわらかい生地でも焼くことができ、しかも直接鉄板で焼くので豆臭さも軽減できます。この製法に舵を切って進み始めたブレッドチーム。
課題が山積みでしたが、「また食べたい」とお客様に思っていただける様な品質にしなければ…そんな風に考えながら、数百に及ぶ試作をしました。ワッフルメーカーさんにもお話を伺ったり、設備をお借りしたこともありました。できるだけワッフルに見えないようにオリジナルデザインの焼き型も作成しました。どの方も、時には厳しいご評価も頂きながらも、沢山のご協力と応援をしてくださいました。

そんな苦労もあり一年後 、これならいけるかもと感じたワッフル試作品が何とかできました。しかしブレッドの道のりは甘くありませんでした。

生活者の方への試食アンケートは、散々たる結果。ワッフルにしては甘くないし、パンとしては甘すぎる。糖質を抑えた結果、油っぽくなってしまうという欠点もありました。健康面と美味しさのバランスに苦戦していたので、私たちが解決しきれなかったポイントをまさに言い当てられしまい、開発者として甘かった事を痛感しました。何より、沢山の方々の応援やご協力を頂いていたのに、結果を出せなかったことが悔しくて悲しくて、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。

オーブン製法での再スタート

ワッフル製法で八方塞がりになっているブレッドチームを救ってくれたのは、水野さんの「オーブン製法(=通常のパンとほぼ同様の作り方)への再チャレンジ」というアイデアでした。
これまでオーブン製法では上手く膨らみが維持できず、豆粉パンは困難だと考えていました。しかし、使用する機械の使い方や配合を見直す事で、まだオーブン製法も可能性があるのではないか、そう考えたのです。

ブレッドチームの再出発となりました。このタイミングで開発メンバーも7人(現在は1名産休のため6人ですが)に増え、考え方や試験の幅を広げることができるようになりました。3人寄れば文殊の知恵、という言葉がありますが、まさにその通り。それぞれのメンバーの「こうしたらもっと良くなるのではないか」というアイデアが幾重にも重なって、少しずつ、でも確実にブレッドが美味しくなっていきました。パン初心者が集まっているからこそ、小麦パンの常識に囚われない自由な発想で、原料の活用方法や配合を試験する事ができたのかなと思っています。

一つ目の大きな壁は、ふくらみが維持できず食感が硬くなってしまうこと。原料の配合や焼き方について数百もの試作を重ね、ふっくらとした食感を維持することに成功しました。
もう一つの壁は豆特有の臭み。様々な原料を試した結果、豆粉の加熱処理と乳酸菌の力を借りることで臭みを低減できることがわかり、ZENBブレッドの基本形が出来上がりました。

「おいしい」と「カラダにいい」の両立

次のステップは、お客様にまた食べたい、美味しい、と思って頂けるような品質を作る事でした。罪悪感のない、健康的なパンにしたい。でも、健康が理由だけで選ばれるパンにはしたくない。
お客様から美味しいから食べたい、そう思って頂くにはどんな味作り、形、大きさがいいのか、メンバー全員で議論しました。

私は「カカオ」を担当し、チームで一番若手の市川さんは「3種の雑穀」と「くるみ&レーズン」の味づくりを担当しました。香ばしさ、甘み、塩味など、まずは黄えんどう豆との相性から考え、一つひとつ調整を繰り返していました。ようやく、「これだ」と思える配合にたどり着きましたが、この味わいをそのままに糖質30%オフを実現させることは、大きな挑戦でした。

黄えんどう豆と合うほのかな甘みを持たせながら糖質を下げるという、一見相反するような課題をクリアしなければならない。私も難しいなと感じる課題でしたが、若手の市川さんはこの難題解決のために何度も何度も配合バランスを微細に調整し、試験していました。その一生懸命な姿は、私だけでなく、チーム全体にもやる気や頑張る気持ちを与えてくれていました。

ちなみに、くるみ&レーズンとカカオには少量の砂糖を使用しているのですが、ここにもこだわって「てんさい糖」を使用しました。
てんさい糖は、ほうれん草の仲間の野菜である「てんさい」から作った砂糖のこと。その中でも、まろやかでコクのある甘みが豆の風味との相性が良かったこともあり、精製度が低くミネラル分の多い「てんさい含蜜糖」を使用しています。

そして、ドキドキしながら迎えた第2回目の生活者の方の試食アンケート。一度大きな挫折を味わったZENBブレッドが生活者の方から「おいしい」という評価をいただけた時は、今までにないほど嬉しかったです。

量産化の壁

ブレッドの品質が固まってきた私たちは、次なるステップ、工場での生産へ挑みました。
実験室では数百グラムレベルで作るブレッドを、数十キロ単位で作る。大きなミキサーでちゃんと均一に混ざるのか?オーブンで百個単位を一度に焼いたらすべてが同じように焼き上がるのか?やってみないと分からないことだらけでした。
まずは機械メーカーの方に大きめの設備を借りて検証を進めました。その結果を踏まえて、パンの製造工場でテストすることになりました。委託先のパンのスペシャリストである現場の方も豆粉のパンは作るのが初めてでしたが、何度も工場テストする中で、ようやく実験室の品質が再現できる条件が固まってきました。
しかし喜ぶのもつかの間、豆粉自体の加工を少し変更しなければならなくなり、再テストに臨むとまたぺしゃんこのパンになってしまいました。オーブンから出てきたブレッドを見て、チーム全員で愕然としてしまいました。すごろくの「振り出しへ戻る」マスに当たってしまったような、そんな気分でした(今では良い笑い話です)。

それでもチームで、なぜ膨らまなくなってしまったのか原因を究明し、実験室で何度も原料配合の微調整、ミキシング時間、温度管理など追試験を行った上で挑んだ工場でのテスト生産。何とか元通りの焼き上がりができるようになりました。

工場先では、ZENB以外の生産もあるため日程が限られ、実験室での試験のように、細かく何度も試験ができないことが工場テストの難しいところです。月1回程度しかできない生産試験日のテストをいかに有効活用するか、それもチーム一丸となって工夫しながら進めたことで、なんとか目標の発売日に実機での生産を間に合わせることができました。

このブレッドで、多くの方に笑顔を届けられたら

おいしさも、健康も、妥協しないブレッドをお客様へ届けたい。
試作は本当に失敗ばかりで、個人的には心が折れそうになる事もありましたが、4年間頑張れたのは、どんな試作品も、どんな試験結果もチーム全員で考察し、その結果から何を学ぶか、次はどうしたら上手く出来るかを議論しながら進んできたからだと思います。また、社内のメンバーに限らず、社外の方にご協力頂いたことも大きかったです。
でも、これがスタートだと思っています。ZENBブレッドを食べて頂いた方のご意見もお聞きしながら、さらにおいしく、そしてパンとしての品ぞろえももっと増やしていきたいと思います。

どうか、1人でも多くの方の笑顔が増えますように。生活の中にちょっとでも嬉しい出来事が増えますように。そんな願いを込めて、このZENBブレッドをお届けしていきたいです。


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