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#19 こはだ

杉田孝明 / 日本橋蛎殻町すぎた

今回の料理人は、すし職人の杉田孝明さん。
口コミサイト、食べログに掲載されている88万軒の飲食店の頂点に輝く名店中の名店、日本橋蛎殻町すぎたの主。

杉田さんの握る鮨は、素材の持ち味が究極にまで高められた鮨。

例えば、鮪のづけ。
杉田さんの切り方は独特。
薄く、大きく切りつける。
それを一貫分の大きさに折りたたんで握る。

厚く切れば、漬けるのに時間がかかり、まぐろ本来の食感、風味が損なわれてしまう。薄く切れば、満足感が得られない。
素材を最大限生かすことを考えつくされた握り。


杉田さんは一日のほとんどの時間を仕込みに費やす。
鮨の良し悪しは仕込みで決まるからだ。
大衆魚を極上の鮨だねに変える。
それが職人の“当たり前”の仕事。

毎日毎日、同じことを繰り返しやっているからこそ気づけることがある。
それを昨日より今日、今日より明日、良くなるようにやっていくことが職人の仕事。
」と杉田さんは話す。

こうした考えに行きついたきっかけは、若いころの苦い経験にあった。
自らの城を構えたものの、鳴かず飛ばずの日々。
焦った末、我を忘れ、いかに客の目を引く鮨を握るかばかりを考えていた時期もあった。そうした試行錯誤の中、ふと浮かんできたある疑問。

珍しいものや変わったものに本質はあるのか?

鮨の本質とはなんなのか。
原点に立ち返り、徹底的にあらゆる仕事を見直した。
もっともっと掘り下げて一つのものを考えようとした結果、お客さんが喜んでくれることにつながった。



奇をてらわず、愚直なまでに素材と向き合い続けてきた杉田さんは、
そんな職人仕事が最も生きる握りを未来に遺したいと考え、作品を完成させた。

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その鮨だねは、こはだ。
骨が多く、臭みも強いので鮨屋以外ではほとんどお目にかからない“こはだ”を杉田さんは極上の鮨に生まれ変わらせた。

現状に甘んじることなく、素材のさらなる可能性を引き出そうとする毎日の積み重ね、職人仕事のすべてが生んだ一皿だった。

杉田さんが未来に遺したかったもの
「職人としての繰り返しの仕事」

ただただ同じことの繰り返し。
だからこそ気づけることがある。
その小さな気づきを進化させて、積み重ねること。

日々、素材と向き合い、さらなる可能性を引き出そうとする人にしか気が付けないわずかな進化の積み重ねが、100年先の未来の食をより豊かなものにする。

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