#20 IL Piatto per Futuro
小林幸司・葉子 / Fogliolina della Porta Fortuna
皿の上の出来事をよどみなく説明する料理人、今回の主人公、小林幸司シェフ。
小林シェフのお店、Fogliolina della Porta Fortunaの料理は厳密にいうと、彼が作ったものではない。厨房で料理を作るのは妻、葉子シェフ。
お店の名前、Fogliolinaはイタリア語で「小さな葉」、 Porta Fortunaは「幸せを司る」どちらが欠けても成立しない、二人の料理人からなるレストラン。
その料理の構築の仕方も独特。
コースは数日ごとに変わり、その後、同じ皿を作ることがないというのがポリシー。
コースを組み立てる上でまず行うことは食材の確認。食材は小林シェフが選んだものではなく、信頼する業者が選んだものを使う。
自分の中に基準があると、いい素材でも基準外のものを無意識にはじいてしまうが、そのような固定概念がなく自由な発想で食材選びをする。
次に行うのが、テーマづくり。
テーマを決めるのはもう一人のシェフ、葉子シェフ。
「雨の香り」「台風一過」「サルデーニャの風」「教会のクリスマス」など
季節の空気感、イタリアならではの風土や文化をテーマに、皿に映し出す。
食材選びやテーマを他人に任せることで、“新鮮”なものになる、と小林シェフは話す。
テーマができたらいよいよレシピづくり。
ここにも小林シェフの流儀が。
食材を口にしない。
味見をしてしまうと、その日の湿度などで、水っぽく感じるなど肉体的な誤差がでるため、業者にその食材のコンディションを聞くことで、寸分の狂いもない料理に仕上げる。
そうしてできたレシピを元に、小林シェフが1人前の試作品をつくる。
試作品を食べるのは葉子シェフ。そしてお客さんにだす料理を作るのも葉子シェフ。
これがFogliolina della Porta Fortunaの料理ができるまで。
この独特なスタイルが生まれた原点とは。
26歳の時、自身がオーナーシェフを務める店をオープン。
繁盛していたにも関わらず、突然閉店。
自分の中に絶対的に自信がもてるようなイタリアがなかった。
真のイタリア料理を体得し、自信を持つため、
小林シェフはイタリア料理の最高峰「リストランテ・ヴィッサーニ」に入店。そこで、経験を積むうちにたどり着いた結論。
イタリア料理は狩猟民族の料理である。
狩猟民族は天から授かったものを狩って生きているので、その種を絶滅させるまで食べつくすことは絶対にしない。
その種が絶滅しないことまでも自分たちの範疇に入れ、自然の摂理に逆らわず、知恵を使って調理するのがイタリア料理。
「すべてのものの条件を素直に受け止めて、そこから自分の知識と技術をもって、楽しくておいしいものを作り上げるのが料理人。」
そんなイタリア料理の核心に触れた小林シェフが葉子シェフと二人で作り上げた未来へ遺すべき作品。
子ウサギ、子ガモ、仔羊、3種類の肉をソテーしたシンプルな一皿。
子ウサギは鉄のフライパンで塩とオリーブオイルを振りながら、表面から強火で焼き、脂肪分だけを溶かす。
子ガモは鉄のフライパンで塩とオリーブオイルを振りながら、表面から強火で焼き、脂肪分だけを溶かす。
子羊は鉄のフライパンで塩とオリーブオイルを振りながら、表面から強火で焼き、脂肪分だけを溶かす。
全く同じ調理法で、3種類の肉、それぞれの素材の持ち味を引き出した作品を完成させた。
なぜ、この一皿だったのか?
「自分が料理人になってから今まででも、使えなくなった食材がある。
今日使ったウサギ、カモ、羊もこの先、ずっとあるとは限らない。
けれども、どんな素材もおいしく仕上げるこの火入れはずっと遺る。」
特定の素材がなければできない料理ではなく、今あるどんな素材の良さも引き出し、おいしい料理に仕上げる「技術」。この技術は、この先も自然と共存するサステナブルな食を実現していく。
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