#30 創味伝承 La farine de sarrasin
渡辺雄一郎 / Nabeno-Ism
今回の料理人は、江戸の食文化が今も息づく浅草に店を構えるNabeno-Ismの渡辺雄一郎シェフ。
かの有名なジョエル・ロブションに9年連続で三ツ星をもたらした渡辺シェフ。キャリアの始まりはル・マエストロ・ボキューズ・トーキョー。20世紀最高の料理人ポール・ボキューズ氏のもと料理人としての第一歩を踏み出した。
彼がふるまう料理はフレンチの常識を覆すもの。
地元の老舗、種亀のもなかの皮、大心堂の雷おこしとコラボレーションをして八寸のように仕立てた料理、フランスの伝統食材、ブレス産の鳩には京都の伝統野菜、山科なすを合わせるなど和食文化に敬意を表しつつ、それをフレンチならではの技法で仕立てた唯一無二の料理。
日本人で初めてパリでミシュランの星を獲得した中村勝宏さんも
「今までの日本のフランス料理はフランスの真似だったが、これからは日本の風土に調和したフランス料理を目指さなければならない。彼はそのリーダー」と話す。
渡辺シェフがもう一つ大事にしていることがチームの一体感。
調理場だけでなく、サービスなどスタッフ全員に共有されるというレシピには、いつ考えたか、誰との思い出をキーワードにしたかに至るまで全てが書き記されている。ここには、渡辺シェフの「想いを料理にのせて欲しい」という考えが込められている。
そんな渡辺シェフはどんな一皿を未来へ遺すのか。
渡辺シェフには、自分のお店を開くにあたり、何か目玉になるものを作ろうと、方々をまわりようやくたどり着いた食材がある。
―それは、そば粉。
そばがきを炊くのは渡辺シェフの日課。
Nabeno-Ismの開店当初からの不動のスペシャリテが、そばがきと昆布のジュレ。影響されたのはジョエル・ロブション氏のジュレ・ド・キャビア。
初めて食べた時に衝撃を受け、自分もこんな表現をしたいとずっと心に残っていた一皿。
渡辺シェフが未来へ遺すべき作品として完成させたのは、預かった店の料理ではなく「Nabeno-Ismの渡辺シェフの料理」を遺すという想いで作ったスペシャリテをさらに進化させた一皿だった。
そばがきとの相性を確かめた4種類のエビから選んだのは、甘えび。
そばの風味を損なわぬよう、甘えびの魚醤をごく薄く塗り、最小限の味付けにとどめた。仕上げは塩を1尾に対して3粒。
お皿の中の一体感、ハーモニーを大事にして進化させたスペシャリテだった。
渡辺シェフがこの一皿に込めた想い。
「この一皿は人のご縁と協力、つながり、こだわりで出来ている」
「日本人が忘れない日、お正月に食べる縁起の良い食材を使った一皿にすることで、忘れない日に思い出してもらえるような一皿にした」
料理はシェフ一人で作っているのではない。たくさんの人との縁、つながり、協力でひとつの料理は完成している。このつながりが豊かな食を未来につなぐ。
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