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日本と中国の伝統の調和が、新しい文化につながる

川田智也 / 広尾「茶禅華」シェフ

「日本の中国料理」を作り出すために日本料理や伝統文化を学ばせて頂きました。歴史を学び、日本と中国や世界の文化との調和を大切にすることが、食文化の未来につながるのではないでしょうか。

素材の天性を感じる「淡み」のおいしさ

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『ミシュランガイド東京2021』で東京の中国料理として初の三つ星を獲得した「茶禅華」。料理長の川田智也さんは「日本の中国料理」の新境地を開く。料理と飲み物とのペアリングを重視し、中でも中国茶との組み合わせが高い評価を得ている。

川田さんは「真味只是淡(真の味は淡きところに宿る)」を信条に、食材の持ち味を生かし切ることにこだわりを持つ。

「淡みとは食材の天性をストレートに感じることです。人の叡智によって食材に少し塩を加えたり、包丁や火を入れることで料理になる瞬間がある。そこを捉えるのが料理人の役目だと思っています」

しかし日本では一般的に中国料理は味が濃く脂っこい料理だとイメージされがちだ。川田さんはそういった料理を好む現代の食生活の問題点を指摘する。

「『甘え』という言葉がある通り、甘さや濃い味、脂っこい料理を求めすぎることは甘い思考や堕落につながりやすいと思います。その方向性で味覚が形成されてしまうと、いずれは健康にも害を及ぼすでしょう。味覚はそれほど大切なものなのではないかと思います」

濃い味付けが好まれる要因として、増加した人口に対応するために食糧が大量生産、長距離輸送されていることが考えられる。

「生産地から遠い場所まで運ぶことによって素材のパワーが落ちるため、化学調味料を使った味付けや調理で補わざるを得ないのかもしれません」

そんな時代だからこそ、若い頃からの「味覚教育」が大切だと川田さんは考えている。

味覚を育てるためには、お茶は特に素晴らしいものだと思います。水と茶葉そして人間の叡智である発酵や熟成だけで、あれほど立体感のある味と香りを生み出している。調味料すら必要ありません」

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中国では、お茶を淹れるために湧き出る水を、土で作られた壺に寝かせて水の性質を変える。それを「水を養う」と呼ぶという。水の性質、温度、茶器など全てがお茶の味わいと香りに寄与している。

「そういうことを知ると世界が広がります。お茶は勉強すればするほど、自然との調和を考えることになります。それが大きな視点で考えてみると、持続可能な地球環境を考えることにもつながるのではないでしょうか」


伝統から学ぶことが未来の食文化を作る

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川田さんが、自身の信条である「真味只是淡」に行き着いたきっかけは修行時代にあった。

「4歳頃から中国料理が大好きで、18歳から修行に入り約10年間、中国料理を学びました。特に香辛料をふんだんに使った四川料理が好きだったこともあり、何度も現地を訪れては食べて追及していました」

しかしそれを続けるうちに胃が燃えるような感覚になり、入院することになった。

「辛すぎる食事を大量に摂取することは、四川とは気候風土が全く異なる日本人にとって合わなかったのだと思います」

川田さんは入院中、「食とは口を満たすためのものでいいのかだろうか」と考え続けた。

「食という字は人を良くすると書きます。心と体を滋養するのが食の本質なのだと意識が大きく変わりました

そこから次に目指すべきものを考え抜いた結果、川田さんは日本料理「龍吟」に入門する。

「自分の足元には、四季を捉えて食材にできる限り手を加えず、軽やかに表現する日本料理があるじゃないかと気づいたんです」

「龍吟」の日本料理のすごさを、「中国料理のような力強さと、その対極にある清らかさ、その両方を持っている」と川田さんは表現する。

日本料理の修行を重ねながら日本文化について学びを深めるうちに、日本料理には「中国から伝来した」と言われるものが数多くあることに気づく

「例えば日本料理の胡麻豆腐は、中国の僧が開いた禅宗・黄檗宗(おうばくしゅう)の精進料理から発展したものだそうです。日本料理のルーツが中国文化にある、『和魂漢才』が自分の目指すものだと確信しました

「和魂漢才」とは、中国から伝来した文化の本質を捉えて日本の感覚に合ったものに作り替え、日本の文化にしていくという概念だ。

「さらに調べていくうちに中国の明の時代の『真味只是淡』という言葉に出会い、食材の持ち味を生かすのは日本料理と中国料理に共通する概念だとわかったんです。その概念を持って自分の生きていく道を進もうと思いました」


和魂漢才は、融合ではなく調和

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川田さんが考える「和魂漢才」とは、日本文化と中国文化の融合ではなく、調和を指す

「融合とは、色で表すと白と黒を混ぜて灰色のものを作ることです。そうではなく、中国の文化のいいところを学びながら、日本の文化の中に共存させる。太極図のように、白と黒が両方存在しながら美しい形を描く調和を大切にしています」

調和を重んじる川田さんの考え方に影響を与えたのが、幕末から明治にかけて活躍し、2021年の大河ドラマの主人公にもなっている渋沢栄一の書いた本『論語と算盤』だ。

「中国料理の師匠に、『中国料理をやるのなら料理だけではなく、哲学や、中国や日本はどんな国なのかを学びなさい』と言われ、東洋哲学や論語を読むようになりました。その中で出会った『論語と算盤』は、著者が論語を読み解きながら、経済と道徳の両立を説いている本です」

「道徳を追及していると経済はついてこないのではないか」と川田さんは長年大きな疑問を持っていた。

「料理人だけではなくどんな仕事でも、道徳と経済を切り離して考えた方が楽だと思います。しかしこの本は、道徳を追及すれば必ず経済がついてくるという信念のもとで書かれています」

この考え方は全てに通じるのではないかと川田さんは語る。

自分の利益だけを追及して周囲との調和を考えない。それをやりすぎたせいで環境が破壊されてきた。今こそ自分が周りに与える影響を考えなければならない時期だと思います。『論語と算盤』はその意味で非常にサステナブルな考え方を示す本なのかもしれません

「論語か算盤」ではなく、『論語と算盤』、「日本か中国」ではなく「日本と中国」というように対立も融合もさせない。日本文化を理解した上で、世界の文化と調和を図ることが重要だと川田さんは考えている。

これからは日本料理以外にも様々な世界の料理を勉強して、更なる日本の食文化の未来を創造していくことがひとつの面白さであり、使命なのかなと思っています

また、「こういった僕の考えは、先人からいただいたもの」と川田さんは言う。

調和や周囲への配慮は、まずはいただいた命を無駄なく使う、ゴミを減らすという簡単な習慣の積み重ねから始まります。それを伝えて、しっかりとした考え方を持つ料理人を育てたい。そして弟子がそれをまた10人の弟子に伝えて広がっていくことで、日本の料理界がさらに良くなっていくと思います」


■プロフィール

川田智也(かわだ ともや)1982年栃木県出身。幼児期から中国料理の料理人を志す。2000年に中国料理の名店「麻布長江」に入門し、2002年に入社、10年間の修行を経た後、日本料理を学ぶために「日本料理龍吟」に入社。台湾店である「祥雲龍吟」の立ち上げにも参加する。2017年2月「茶禅華」をオープン、料理長を務める。『ミシュランガイド東京2018』の初掲載で二つ星を獲得。2021年版では日本のミシュランガイドで中国料理として初の三つ星を獲得した。

取材日/2021年10月

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