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#8 胡麻豆腐

秋山能久 / 六雁

今回の料理人は和食の名店、六雁の秋山能久さん。

和食の店ではめずらしい、さらしの板場に立つ。
精進料理をベースに素材感を活かす独自のスタイルを確立。
世界料理学会の総合ディレクターも務める料理界のニューリーダーだ。

「料理は消えてなくなる芸術」と話す秋山さんの料理は、空間デザイン、照明、お店のレイアウト、食べ方の提案までこだわり抜かれた、五感で、体全体でおいしさを味わえる料理。

それを実現するために欠かせないのが、包丁職人、坂下勝美さんの包丁。
「これから先は料理は見せる時代。いろんな道具を使って、神経を使って、こういう想いを持って作っていることを見せていかなければいけない」という坂下さんの教えを胸に料理に向き合う。

料理は、命を頂くという事。そこにきちっと想いをのせていかないと、食材に対して敬意をはらえない。包丁ひとつ入れるにしても、命を頂きますという想いをのせていかないと、ばちが当たると秋山さんは話す。



そんな秋山さんの未来へ遺すべき一皿はまさに、秋山さんの生きざまを体現する料理だった。

大きなすり鉢に水とごまを入れ、丁寧にすりつぶしていく。
全身全霊を傾け、食材のポテンシャルを最大限に引き出す。

そして旨味、栄養素、ごまのすべてを、
心を込めて、最後の一滴まで濾していく。

そこに本葛と日本酒を入れ、塩で味をととのえ、火を入れる。
全身でそのできを確かめ、おいしいと思えるその一瞬を見極める。
最後に名人の包丁で仕上げた。

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全身全霊をささげ、作り上げたその一皿は柔らかさを残しながらも、エッジがたった胡麻豆腐だった。


修行僧のような面持ちでごまをする、丁寧に思いやるようなやさしい手つきで火を入れる、仕事のひとつひとつに想いを込めて行うその姿がすべてを物語っていた。

「いかに食べ手のことを想って作るかが真実」

難しいこと、新しいことをするのが“料理”ではなく、命を頂く感謝の気持ちを持って、おいしく食べてもらえるよう想いを込めることが“料理”。
“料理”が“素材”を何倍にもおいしくできるのは、料理人の想いがあるからこそ。究極にシンプルなこの一皿は、おいしさってそういうことだなとしみじみと感じさせてくれる一皿でした。


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