#41 雨庭での弁当
佐々木浩 / 祇園さ々木
伝統と文化が根付く古の都、京都。
言わずと知れた、日本料理の聖地でもある。
中でも名店が軒を連ねる食の中心地、祇園町に暖簾を掲げる割烹の名店、祇園さ々木の主こそ、今回の料理人、佐々木浩さん。
京料理界の先頭を走り続ける佐々木さん。
圧倒的なまでの素材を見事な料理に変えていく。
時に中華鍋を振り、冬の名物、カニチャーハンに仕上げる。
かと思えば、割烹ではまずお目にかかれないピザ釜を駆使、なりふり構わず、客をもてなす。
フランス料理界の巨匠、アラン・デュカスさんは佐々木さんについて、
「現代的であるが、地元に深く根ざしている。全身全霊で料理を表現し、その情熱を伝えるために、自ら料理を運ぶ。人を究極に楽しませるために生まれてきた人」
と評するとおり、おいしいを飛び越えた、エンターテインメントという新しい割烹店のスタイルを築き上げた。
そんな佐々木さんには、大事にしている言葉がある。
楽味(らくみ)
「うまいの上は、楽しさだと思うんですよ。だから、おいしかったなぁいうたら、僕の中では70点なんですよ。今日は楽しかったなぁ、今度いつ空いてるねん、次、予約取って帰るわぁ言うたら120点」
客に心の底から楽しんで欲しい、尽きせぬ想いは緊急事態のさ中にも、その本領を発揮していた。
そんな佐々木さん、未来にどんな一皿を未来へ遺すのか。
我々は佐々木さんから1通の手紙を受け取った。
“大本山建仁寺 塔頭 霊源院にて お待ち申し上げます”
そこに未来へ遺すべき一皿を持って、佐々木さんがやってきた。
「未来へ遺すべき一皿、今回はお弁当にしました」
そう言って手渡された赤い包みを開けると、一枚の葉っぱとお弁当箱。
佐々木さんの一皿、それは長年培ってきた技をぎっしり詰めたお弁当箱だった。
具材が物語る京都の豊かな食文化、それを京都の至宝、楽焼のお弁当箱に詰めた。下段には寿司や、焼き物、中段にはお造り、上段には色鮮やかな夏の食材、丁寧に詰めこみながら食べ手に心を重ねた。季節は七夕、かじの葉を一枚添えた。
「お弁当は16世紀くらいから始まって、江戸の末期に盛んになった。お弁当は想いを詰められる。一品だけではなく、これも食べさせてあげたい、あれも食べさせてあげたい、その気持ちが箱の中に入っている姿が僕はとても好きなんです」
季節を感じさせる、あれもこれも味わって欲しい、そこに詰められたのは料理の顔をした、佐々木さんの心意気だった。
「お弁当はいろんなシチュエーションがある。駅弁やお花見、法事、運動会で食べるとか。その中に気持ちを込める。お花見だったら、華やかにしてあげようとか、法事だったら質素にしてあげようとか、先人が築き上げた弁当の中で、まだまだ進化をする。これが若い人に教えていくべき日本の文化かなと思った」
佐々木さんが未来に遺したかったもの、それは、進化を続けるからこそ、残り続ける伝統、そして、美味をはるかに超越した、楽味だった。
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