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#40 ふつうのハンバーガー

鳥羽周作 / sio

新型コロナウイルスは、我々の生活に計り知れないダメージをもたらした。中でも飲食業界への影響は深刻なもの。

そんな飲食業界に吹く逆風を、追い風に変えてみせた料理人こそ、今回の主役、sioの鳥羽周作シェフ。

ミシュランの星の輝くsioの料理は、あるテーマによって貫かれている。

それは、“五味+1”

甘味、塩味、酸味、苦味、旨味の五味を可能な限り盛り込みつつ、香りや刺激、食感をプラスすることで、一皿を立体的に仕立てるという考え方。


席は現在2ヶ月待ちとなっているが、それだけにとどまらず、レシピ本を出せば、大ベストセラー、YouTubeの再生回数は100万を超える。

今や日本一名の知れたシェフと言っても過言ではない鳥羽シェフが、ここまで知名度を上げることができた理由。

答えはコロナ禍における、彼ならではの仕掛け

2020年4月、緊急事態宣言が発出され、客足はぱったりと途絶えてしまった。そんな中、鳥羽シェフは、すぐさまtwitterやYouTubeを通じ、レシピを発信。それもレストランのクオリティを家庭で再現できるものばかりを惜しげもなく。

なぜ、そんなことを始めたのか。

「飲食業は作る相手がいて、幸せでしたと言われて初めて、俺達って存在してるなって、だとするなら、最初に考えるのは相手のことだと思っていて、コロナの時に何を一番大事にしたかと言ったら、料理に携わる人間としてやり続けたいということを考えた。真っ先にやらなければいけないと思ったのは、相手のことを思いやって、その人が喜ぶことを、金になるならない関係なしに全力で全部やると決めた

2021年1月には、レストランにとって死活問題となる午後8時までの営業時間の短縮要請にもめげず、鳥羽シェフは新たな仕掛けを打った。

それが朝ディナー。
単なる言葉遊びととらえられることもあったが、ディナーとは本来、夕食という意味ではなく、一日で最も大切な食事を指す。

コロナを機に社会の動き、人の流れが朝にシフトした。
ならば、1日の始めにレストランクオリティーの食事を楽しみ、その日の活力にしてもらいたい、その一心で緊急事態宣言から4日後にはスタートさせていた。

こうした鳥羽シェフのコロナ禍における快進撃は、料理人としてのある信念が原動力になっていた。

幸せの分母を増やす

一人でも多くの人を食で幸せにしたい。そう考えるようになったきっかけを教えてくれた。

「息子が保育園でパパはどんな仕事をしているのかを聞かれるじゃないですか。その時に、代々木上原でsioというお店をやっていますと言った時に、高くて行けない、と言われた。日本の人口の中でsioに来れる人って1%にも満たないようなことをやっていて、それでちょっと満足してしまっていたなぁと思った時に、子供に自慢できる料理人像ではないなと思ったのが一番の理由」

そして、sioならではのクオリティーを気軽に楽しめる、2軒のレストランを新たにオープンした。


そんな鳥羽シェフが近年、危機感を抱いているのが、飲食業界で働く者の給料が安いこと。

なんとかしたいと、出した答えは、自分がなるべく厨房に立たないこと。

「自分がお店にいなくても稼げる場所が作れれば、自分は外に出て稼ぐことができ、その分をみんなで分配できる。でも、それをやるには一人ではできなし、任せられるチームがいないと外には出られないので、チームを強くすることが絶対条件」


そんな飲食業界の慣習に風穴をあけ、一筋の光明をもたらす、鳥羽シェフは、未来に何を遺すのか。

向かった先は、原宿。
2007年創業、昨今のグルメバーガーブームの火付け役となった名店、THE GREAT BURGER。実はこの店のオーナーシェフの車田篤さんこそ、鳥羽シェフに料理のいろはを叩き込んだ師匠。

鳥羽シェフが未来へ遺す一皿に選んだのは、自身の原点ともいうべきハンバーガーだった。

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ハンバーガーは、五味のうちの四味にして、ホップソルトの苦みを効かせたポテトをペアリングし、ハンバーガーとポテトを無限に楽しめる一皿を完成させた。

味の構成はこちら。
五味
【旨味】肉
【塩味】塩
【甘味】リンゴジャム
【酸味】根セロリ
【苦味】ホップソルト(ポテト)
+1
【香り】クミン

なぜこの一皿だったのか。

「みんな大好きで自分の子供も週に2回くらい食べたりするようなものを、sioなりの考え方でおいしくできたら、よりたくさんの人に自分たちの想いを伝えられる」

「今までは一人で料理を作っていたが、その道のプロと僕とでなんか新しいものがやれること、レストランと専門店の垣根を超えることは、これからスタンダードになっていく感じがあるし、そうしていきたい。そうすることでいろんな人に食べてもらえるようになるし、喜んでもらえるお客さんが増える」

鳥羽シェフの目論見は、互いのお店のお客さんを循環させること
この取り組みを成功させることができれば、苦境に立たされた飲食業界を勇気づける起爆剤になる。

飲食業界に勇気を与え続ける、鳥羽シェフがたどり着いた答え、
それは、幸せの分母を増やす一皿だった。


この番組は現在YouTubeでも公開しています。ぜひご覧ください↓



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