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#15 La Richesse du Japon

岸田周三 / Quintessence(カンテサンス)

ミシュランガイドが東京にやってきたのは2007年。
以来12年連続で三ツ星が輝くカンテサンスのオーナーシェフが今回の主役、岸田周三シェフ。

岸田シェフの料理は一見シンプルでありながら、独創に満ちている。
こと火入れに関しては右に出るものはいないと言われているが、その素晴らしさは、技術以上に、素材ひとつひとつに対してどうやったらおいしくなるかを突き詰めて考える姿勢。

そして、岸田シェフはレシピを作らない。
レシピは料理を制約し、成長を止めてしまうと考えているからだ。
こうしたらもっとおいしかったのではないか、を日々改善し、それを毎日積み重ねることで、今もなお、岸田シェフの料理は進化を続けている。

こうした料理に対する姿勢は、3年間勤めたフランス「アストランス」のパスカル・バルボシェフの教えが礎になっている。

それまでは古典のフランス料理、教科書から抜き出したような料理をしていた岸田シェフ。パスカルさんの教えはこうだった。

「古典のフランス料理が100点ではないだろう。もっとよくすることを常に考えていかなければいけない。人が創作した料理を真似して作っているだけでは、あなたの存在価値はなんなのか。」

仕事の検証を怠らず、常に高みを目指すことこそ、自分の存在価値。
今もその教えを胸に、101点、102点の料理を目指し続けている。



そんな岸田シェフには、ここ数年気がかりなことがある。
それは、多くの水産資源が減少を続けていること

そんな現状をひとりでも多くの人に知ってもらうため、日本の豊かさがなければできない一皿を未来へ遺すべき作品のテーマに選んだ。

作品作りに選んだ食材は、駿河湾の宝石、桜えび。
20年ほど前まで年間2000トン以上の水揚げを誇っていたが、ここ10年は半分以下にまで落ち込んでいる。

そんな現状を嘆いているだけではなく、漁師も努力を続けている。
漁獲競争を避けるため、漁獲高を均等に分けるプール制を導入、さらには産卵期の禁漁や小さなエビの多い群れは避けるなど資源保護のため、数々の取り組みを行ってきた。

それでも漁獲量は減り続け、冬には禁漁をしたにも関わらず、この春も群れが少なく、漁に出られない日が続いている。

そんな現状に岸田シェフは
「自分ひとりでは無理、ひとりの料理人に何ができる、と行動しないことが一番良くない。自分たち料理人にはきっかけを作ることができる。」と考え、サステナブルシーフードの普及を目指すシェフズ・フォー・ザ・ブルーなどの活動に積極的に参加している。

この活動を始めて3年、水産庁とも話をするところまで来ているなど、活動は少しずつ実を結び始めている。


この水産資源の現状を多くの人に知ってもらいたいと作った、

La Richesse du Japon

その名のとおり、未来に遺したい日本の豊かさを表現した、岸田シェフの作品が完成した。

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いか、マハタ、鰆にさっと火を入れ、炒った干桜えびとその香り高いひげ、細かく切った西洋野菜を合わせてソースを作り、素揚げにしたアーティチョークにかけて仕上げた。

ひとつひとつは小さくても集まった時、想像を超えた力を持つ。

水産資源を守ろうと戦うすべての人に向けたエールの一皿だった。

100年後の未来に豊かな資源を遺すという大きな課題はひとりでは解決できない。だが、ひとりの料理人が作ったきっかけが、未来の食を変える力になる。

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