素人集団が挑んだ、豆100%麺「ZENBヌードル」誕生までの道のり
ZENBヌードル開発時、R&Dグループの一員として携わっておりました龍と申します。
初期の技術開発段階から携わっていたメンバーを代表して、手探りで「麺」の開発を始めた頃からZENBヌードルとして安定して市場に供給できるようになるまでの約3年間のことをお話しさせていただきます。
ド素人だけでの開発スタート
麺の開発は2018年3月、私を含めた3人、麺についてはド素人のチームで2021年度の上市を目標にスタートしました。
当時は「普段食べずに捨てている部分まで“まるごと野菜”を使った新しい食品を検討する」というZENBのプロジェクト方針の元で、ヘルシーな主食としての健康的な麺である「まるごと野菜の麺」を作ることがテーマでした。
とりあえず麺を作ってみるために市販されている家庭用のパスタマシンを購入。まずは「まるごと粉砕した野菜100%だけの麺」の試作を始めましたが、小麦が前提となっているパスタマシンでは当然野菜だけではなかなか麺にはなりませんでした。麺になったように見えて茹でているうちに溶けて形がなくなり、できるのは麺の形をした野菜スープの素ばかり。前途多難でした。
そこで野菜100%は一旦あきらめ、麺が作りやすく小麦よりも健康価値が高い新たなベースの素材と野菜を組み合わせることに方針転換しました。
ベースとなる素材は、じゃがいもや緑豆など春雨の原料になっているものを皮切りにでんぷんを含む色々な食材を試しました。しかし、べたべたで製麺できなかったり、まったくおいしくなかったりで、目標とする「美味しい麺」とは程遠いものでした。
そんなとき、たまたま他のチームのメンバーが、昔入手して保管していたけれども大掃除で捨ててしまう豆があるがいるか?と尋ねてくれました。捨てるならいただきます!といただいたものが黄えんどう豆でした。
まさに運命の出会い。まるごと野菜と混ぜて麺にしてみたところ、野菜の風味も邪魔せず麺としての食感もよく、これならいけると思いました。そこから黄えんどう豆を使った検討を進め、“まるごと野菜と豆で作った麺”と“豆だけで作った麺”の両方をリーダーに報告したところ、「豆だけの方がおいしい、豆100%麺を検討しよう」という答えが。スタートから半年後の2018年9月、この瞬間、ZENBヌードルの原型が誕生しました。
黄えんどう豆100%麺
スタートから半年、ここからのヌードル検討のスピードアップはすさまじいものでした。マーケティング担当も付き、3名だった開発チームは増員されて5名になり、試作機も新たに追加購入。2年目に入るとさらに開発メンバーが増え、商品づくりのチームに加えて、工場での生産を検討するチームが編成されました。
当時は100gの麺を作るのにも30分かかるような機械しかなかったので、サンプルを準備するのも本当に大変な日々でしたが、外部の有識者の方に試食していただくと豆だけでできていることに心底驚かれ、口をそろえて美味しい、価値のある麺だ、と言っていただけることが何よりの励みになっていました。
ただ、美味しいと言ってはいただいておりましたが、口に入れた時のべたつきや噛んだときに舌で感じる豆特有のざらつきと香りが気になると言われていました。ZENBヌードルは「うす皮までまるごとの黄えんどう豆」を使用しています。いわば、米なら玄米、小麦粉なら全粒粉みたいなものです。
なので、どうしても舌触りが悪くなりがちだったのですが、ヌードルの直径を0.1㎜単位で変えて食感やべたつき、茹で時間の点で何㎜の直径が最適か検討したり、原料処理方法を変えたり、製麺後の冷却方法を何種類も試したり、わずかな改善の積み重ねで少しずつ少しずつ品質が改善していきました。
豆の嫌な香りは抑えつつ、麺としての食感のよさやおいしさにこだわり、最終的にはプロの料理人の方にも美味しさを認めていただける品質が実現できました。
現在ZENBヌードルをお買い求めいただいている方の多くはソースやスープで味をつけて召し上がっていただいていると思いますが、私たちの品質評価は茹で上げた麺に何も味をつけないか、味をつける場合も少量の塩とオリーブオイルをかけるだけのシンプルなもので行っていました。麺そのものの豆のうまみをダイレクトに感じられ、豆好きの方には特におススメです。
量産化の壁
品質向上と同時進行で工場での大量生産に向けての検討もスタートしました。生産委託できる工場の探索と、必要な設備検討を進めるため、出張日数は年間100日を超えていました。
原料や設備を運ぶためトラックをチャーターして大移動するなど肉体的にも大変な日々でしたが、様々な機械や原料処理を試すことで、少しずつ量産化でも目標とする品質に近づいていきました。2020年2月には実際の製造機械の一回り小さい機械で目標とする品質の実現ができ、3月には製造機械の完成と製造委託先工場への設置が予定されていました。しかし、世の中が一変したコロナ時代への突入です。
製造機械の搬入は延期、緊急事態宣言の発令に伴い私たちの出社も制限、日々刻々と変わる状況、見えないウイルスへの恐怖。出張もできなくなり、工場での検討はストップしました。それでも社内での検討は少しずつ進め、緊急事態宣言が明けた2020年6月に製造委託先工場へ製造機械が搬入されることとなり、私たちも委託先工場にご迷惑をかけないよう万全の感染症対策をして、ついに発売までのラストスパートに入りました。
実際の製造機械での量産化は、やはり甘くなく、結局ほぼ一から条件を作り上げる検討が必要になりました。統括の鈴木さん、製造条件確立主担当の遠藤さん、機械主担当の中村さんの3名はマンスリーマンションとマンスリーレンタカーを借りて工場近くに住み込み状態、原料主担当の竹内さんと小野さんは小麦アレルゲンが混入しないよう対策に奔走、私は導入までにクリアしなければならない課題とその解決策についてまとめて品質部門や製造管理部門と何度も議論、各自役割分担しひとつひとつ乗り越えました。私たち6名はまさにあうんの呼吸と言っていいような、1言えば5は相互理解できるようなチームワークで、なんとか3ヵ月で承認を得て、初回生産にこぎつけることができました。
ついにZENBヌードル生産スタート。しかし、
2020年9月14日、ZENBヌードル初回生産日、生産計画は1000袋/日。
しかし実際に生産できたヌードルはなんと60袋のみ。
翌日は90袋、その翌日は150袋、生産開始から5日目にやっと一日で300袋できるような状況でした。
原因は乾燥時のヌードルの湾曲です。
ヌードルの製造は大きく製麺工程と乾燥工程にわかれています。製麺は環境が変わっても微調整で安定的に製造できますが、乾燥は気温や湿度の影響が大きく、環境の影響を受けやすい工程です。
試験で数十㎏作るのと、生産で1t近く作るのとでは乾燥室の環境が大きく変わり、実際の生産では乾燥時にヌードルが曲がってしまい、曲がった麺を手作業で取り除く必要が出てきたため生産効率が極端に下がってしまったのです。結果、販売はスタートしたものの生産量が上がらず欠品状態が続いてしまい、お客様にご迷惑をかける事態を招いていました。
曲がらないように製造するにはどうしたらよいのか、製造方法を変えたり乾燥環境を変えたり、製造と試験を同時に行う日々でした。隣同士の麺がくっついたまま乾燥すると曲がってしまうので、そもそもくっつけないことが肝心でしたが、当時の製造技術では一度に出てくる100本近い麺をくっつけずに乾燥室まで運ぶことが難しく、乾燥させる前に隣同士の麺を1本1本離す作業を手作業で行うことで対応するしかありませんでした。
そんな対応をしながら、機械メーカーの方に相談したり、委託工場の方にご協力いただき、検討を続けることで、生産開始から5カ月たった2021年の2月頃には安定的に生産できるようになり、ZENBヌードルの売り伸ばしを見据えて二工場目の立ち上げに取り組み始めるゆとりが出てきました。
安定生産できるようになってくると、外食店でZENBヌードルを使ったお料理を提供していただくことも増えてきました。プロの料理人の方に美味しさを認めていただいてはおりましたが、複数のお店で提供いただけたことで本当に認められたんだ!という実感が沸き、喜びもひとしおでした。
ここまでが開発スタートから安定生産までの3年間のお話です。
もっといろんな方に食べてもらいたい
ZENBヌードル担当を離れて2年、担当していた時よりも今のほうが純粋にZENBヌードルを愛せているように思います。昔は開発担当として大変過ぎて思い出したくもないという感じでしたが、今はZENBヌードルの良いところだけを見ていればいいからですかね。在宅ワークが多いのでランチは常にZENBヌードル丸麺です。
ZENBヌードルは発売後1500万食以上購入していただいており、定期契約者は6万人を超え、私だけでなく多くの方に愛されている商品に成長してきました。仕事でもプライベートでも手土産にZENBヌードルを用意することが多いのですが、お渡しすると「好きなんです!」とおっしゃっていただくことも増えてきて嬉しい限りです。
私がZENBヌードルを担当していた4年間で大切にしていた美味しさと健康の一致への想いは、ZENBヌードルでいいではなく、ZENBヌードルがいいという気持ちで選んでもらえる商品にしていくこと。一人でも多くの方にZENBヌードルがいい!と思っていただけるよう、今日も現在の担当者達が頑張って改善を続けています。私はこれからも一ZENBヌードル愛用者として応援し続けます。