見出し画像

野菜の可能性を見直すことで、未来の食はさらに豊かになる

米澤文雄 / 青山一丁目「The Burn」シェフ

多様な食文化を持つ人が一緒に食事を楽しめるよう、肉料理中心のレストランでヴィーガン料理の提供も始めました。野菜の可能性を見直すことは、サステナブルな肉の食べ方にもつながるんです。

すべての人に、食を楽しむ権利がある

画像1

青山一丁目にあるNYスタイルのレストラン「The Burn」。炭火で香ばしく焼き上げた熟成肉が好評のお店だが、宗教やアレルギー、環境や動物への配慮などを理由に選ばれているヴィーガン料理にも力を入れており、おいしいと評判だ。

米澤さんがヴィーガン料理の提供を始めた理由。そこには、誰もが一緒にテーブルを囲めるお店を作りたいという想いがあると言う。

「僕自身が行きたいお店を作りたいと思ったんです。そう考えたとき、ヴィーガンの友達と一緒に食べるときに、まず選択肢から外されるような店になるのは嫌だ。ヴィーガン料理も提供して、肉を食べたい人もヴィーガンの人も一緒にテーブルを囲むことができるレストランにしたいと考えました」

来店する人全体の数からすれば、ヴィーガンの人は圧倒的に少数だ。しかし、その人達が食べられる食材の中で、より素晴らしい食体験をしてもらいたい。すべての人に対して、ウェルカムだと米澤さんは言う。

どんな人にも食を楽しむ権利があると思うんです。これから国際化の流れもあり、様々な食の制限を持つお客様が増える可能性があります。僕は、その人たちに寄り添って、お客様が食べたいものの中で、最高のパフォーマンスをしたいと思っています」


ヴィーガン料理は、肉にも負けない満足感が出せる

画像2

そんな米澤さんが作るヴィーガン料理は、華やかな見た目と食べ応えのあるおいしさが特徴だ。

「肉料理を食べる人とテーブルを囲んだとき、羨ましがられるような一皿を作りたいと思っています。やっぱり肉は魅力的な食材。肉を食べた時の満足感は非常に大きいんです。そこで、ヴィーガン料理を作る時は、そんな肉の満足感に負けないために、スパイスやハーブを取り入れ、野菜の官能的なおいしさを引き出すことを意識しています

画像3

米澤さんが作るヴィーガン料理の中でも、メインの肉料理に負けないほどの人気メニューが『カリフラワーステーキ、カルダモンと自家製アリッサ』。カリフラワーを大胆にカットし、カリッと焼き上げた食感と、食欲そそるスパイスとハーブの香りで素材のおいしさを引き立てた一品だ。

「カリフラワーのステーキは、8割のお客様が注文されます。おまかせコースには『絶対に入れてね!』と念を押されるほどです(笑)。このメニューを越える新たなヴィーガンメニューを生み出せないかといつも試行錯誤しています」

ヴィーガン料理を考案する中で、米澤さんは野菜の可能性はまだまだ広がることを実感したと言う。

野菜は熱の入れ方で、旨味や食感をもっと引き出していけると感じています。さらに食材の組み合わせを変えることで、今までになかった食べ方を提供していきたいですね」


野菜の可能性を広げることは、肉の未来にもつながる

画像4

米澤さんは、魅力的なヴィーガン料理を作ることは、サステナブルな肉の食べ方にもつながるのではないかと考えている。

肉を提供している以上、世界的な人口増加の問題や食肉を生産する際の環境負荷を意識しないわけにはいきません。将来、肉を食べられなくなるかもしれない今、自分自身も何かアクションを起こしたいと考えるようになりました」

人口増加で肉の需要が増える一方、食肉の生産には、牛を肥育するために広大な牧場や大量の飼料が必要なため、環境負荷が大きい。こうした問題を解決するために、米澤さんが注目した考えが『Less meat, more vegetable』だ。

「『Less meat, more vegetable』は、みんなが肉の代わりに野菜を食べるようになれば、肉という資源を未来に少しでも多く残せるのではないかという欧米で広まりつつある考え方です。これからも肉を食べ続けるためには、まずは肉の消費ペースをゆるやかにすることが大切ではないかと思いました」

米澤さんは、すべての人に食を楽しんで欲しいという想いから始めたヴィーガン料理も、肉の資源存続に貢献するための提案の一つでもあると意識するようになったという。

肉料理と同じくらい魅力的なヴィーガン料理があれば、肉料理を一皿減らしてヴィーガン料理を選んでもらえるかもしれない。おいしくてみんなを驚かせるヴィーガン料理をつくりたいという気持ちが一層強まりました」

米澤さんは、ヴィーガン料理を通して、サステナブルな肉の食べ方の提案とおいしさの両立を目指している。

料理を通してこうした提案ができるのはシェフの特権だと思います。おいしいだけじゃなくこうした意義も持ち合わせた料理を提案していきたいですね」


■プロフィール

米澤 文雄(よねざわ ふみお) 1980年、東京都出身。高校卒業後、恵比寿のイタリアンで修業し、22歳で渡米。ニューヨークのミシュラン三ツ星店「Jean-Georges」でインターンを経て、日本人初のスーシェフとなる。帰国後、日本国内のレストランで総料理長を務める。「Jean-Georges Tokyo」の日本進出を機に、シェフ・ド・キュイジーヌとして活躍。2018年9月「The Burn」をプロデュースし、料理長に就任。著書に「Vegan Recipes/ヴィーガン・レシピ」(柴田書店)がある。

取材日/2020年2月