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#29 鮪鮨 白松露がけ

神田裕行 / 日本料理かんだ

今回の料理人は13年連続、唯一日本料理でミシュランの三ツ星を獲得し続ける、かんだの神田裕行さん。

神田さんのお店は東京元麻布の閑静な住宅街にたたずむビルの1Fにある。今回初めて板場の取材が許された。

用いる食材は全て神田さん自らが目利きする。
気に入ったら絶対に逃さない。値段の話は後回しになる。
最高の食材を前にするとまるで少年のように目を輝かせる。

四季折々、厳選した食材に最小限の手を加え、料理に仕立てるのが、神田さんの流儀。なのだが、決して縛られたりはしない、他の人にはない自由な発想が神田さんの料理にはある。

「底なし沼のような、澄んでいるんだけど、奥の方に旨味があるお椀。
神田さんの料理は映えない。見た目の美しさよりも内面の美しさのある料理


最小限の構成、最小限の盛り付け
たくさんの要素を入れない。ただ1品だけはたくさんの要素を入れる。そういったコントラスト。シンプルだけど深いとか、華やかだけど軽い料理、こういうことを考えるの時が楽しい」と神田さんは話す。


そんな神田さんを料理の道に導いたのは両親だった。
両親はともに料理人。実家は徳島で名の知れた料亭。
幼い頃から盛り付けや片付けを手伝った。

神田さんにとって原点ともいえる思い出の料理がある。
それは母親が作る茶わん蒸し。

「開けた瞬間にゆずの香り、三つ葉の香りがした。
ゆり根が大好きで、しいたけも鶏肉もいらないから、ゆり根だけで茶わん蒸しを作ってとお願いして作ってもらったが、全然おいしくなかった。鶏からでるだし、しいたけの香り、いろんなことのバランスが料理だということをその時感じた」

料理人を目指すことは当たり前だった。
「決められた」がゆえにつき進めた、と神田さんは話す。



迷うことなく料理の道へと進み、まっすぐに突き進んできた神田さんは、未来へどんな一皿を遺すのか。

向かったのは、日本一の米どころ、新潟県南魚沼市。
そんな南魚沼の中でもとりわけいい米がとれると知られる西山地区。

神田さんは米のすばらしさを伝えるため、農家から田んぼをかり、店で使う米を作っている。志を同じくする料理人仲間との田植え、稲刈りは毎年の恒例行事になっている。

「米は無限にあるみたいに思ってしまうけど、作る人がいて、一喜一憂して、、そういった米を愛する日本人の心は変わらないでほしい

始まりは、米農家の鈴木清さんとの出会い。
米作り一筋60年、減農薬を貫いてきた鈴木さんの田んぼには、農薬に弱いとされるたにしなど、多くの生き物が住み着いていた。

神田さんはそんな鈴木さんの真剣に素材と向き合う姿勢に多くのことを学ばせてもらい、そしてなにより、その透き通った味に驚かされた

「この米にはみずみずしさ、きれいさがある。
日本料理の“美味しい”は旨いではなく“美しい味”と書く。旨味たっぷりではなく、美しい味、きれいな味。それはみずみずしさだったり、香りの豊かさ。それをこの米に感じた」

神田さんは100年後に一番遺っていて欲しい、日本人の魂であるお米を作品の主役に決めた。


自ら収穫した米を浸水時間を短く、水分量を減らして土鍋で炊き上げた。
それをおひつに移す。そこに酢とふるさと徳島名産のすだちを加えて酢飯にした。

酢飯は新米ではなく、水分量の少ない古米で作るのが定石なのだが、この筋肉質な米を使うことで、水分量の多い新米でもしっかりとしたシャリに仕上がった。

この最高の米で作ったシャリで作った未来へ遺すべき作品は

脂ののった鮪のかまを合わせ、仕上げにトリュフをかけて仕上げた。

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新米でもシャリになる強さ、主張の強い素材にも負けない味、香り、
米のすばらしさが詰まった一皿が完成した。

お米の文化、新米のおいしさを日本人の美学として持っていて欲しい

日本人にとってなくてはならない米も、その魅力は身近だからこそ気が付きにくいのかもしれない。米の魅力を再認識させてくれる、そんな一皿でした。


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