#38 原始のスープ
米田肇 / HAJIME
“研究者のようだ”、“芸術家のようだ”、“まるで詩人“と表される料理人、今回の主役、HAJIMEの米田肇シェフ。
その料理はまさに総合芸術。
想像力を喚起させておいて、そこにこれ以上ないという料理をぴったりと出してくる。脳をフル回転させて全身で食べる料理。
そんな料理はどのように生み出されるのか。
厨房はさながら精密機械工房。
中途半端が一切ない、完璧な料理を皆で作り上げる。
指針となるのが、料理の設計図。
米田シェフは、建築家のようにスケッチを描きながら料理を考える。
手掛かりは化学や物理学、生物学にまでおよび、知見の広さがさらに幅と奥行きをもたらす。
その根本にあるものが、生命に対する愛。
食材は全て、命あるもの。
生き物とは何なのか、ということを他の人以上に常に考え、突き詰め、
一皿を作り上げている。
そんな米田シェフの原点。
山と川と田んぼと森しかない、大阪の近郊で生まれた米田シェフ。
幼心に料理人へのあこがれはあったが、大学では電子工学を学び、大手メーカーのエンジニアとして働き始めた。
しかし、26歳の時に料理人に転身。料理専門学校、関西のレストラン修行を経て、本場フランスへと渡った。帰国後、2008年5月にレストランを開店、わずか1年5ヶ月という史上最速でミシュランの三ツ星を獲得した。
全てが順調に見えたそんな時、料理を見た友人の一言が米田シェフを迷わせた。
「君の料理はコピーだ」
この言葉をきっかけに自分の料理とは何なのかを考え抜いた。
行きついたのは
「人から学んだものは、自分の美意識ではないのかもしれない」
「子どもの頃に鳥や昆虫、空を見て美しいと思った、それこそが誰にも教わっていない自分の持っている美意識なんだ、その美しいと思ったバランスをお皿にのせよう」
だった。
それから、あれだけ憧れていたフランス料理をやめ、自分が感じ、考えたことを料理にすると決めた。
そんな米田シェフが作り上げた、未来へ遺すべき作品。
原始のスープ。
大雨が降り、地球に植物プランクトンが生まれ、動物プランクトンになり、必須アミノ酸を食べて筋肉ができて魚になり、陸にあがり、多様な動物、そして私たち人間になる、その原始の海を表現した一皿。
アミノ酸が漂う原始の海は、野菜と肉を数時間煮込んだ深いコンソメスープ、そこにブロッコリーや昆布だしからなる野菜のピューレと香草のオイルを膜で包み、プランクトンのように浮かべた。そして、柑橘の香りをまとわせたオイル、母なる海、その豊かさを見事に再現した。
この一皿に込めた想い。
「今後、私たちは宇宙に行くかもしれない。外から地球を見たら、一つの生命体のように思うはず。今はいろんな国がいがみあったり、いろんな問題がある地球だけど、本当はバランスのいい状態からスタートした。最初はみんなこの原始のスープの中にいたということを考えるきっかけになる一品を作った」
地球、宇宙へと想いを馳せ、そして、原点を見つめなおさせてくれる一皿でした。
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