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食の大切さ、生産者の想いを、おいしさと共に伝えたい

川副藍 / 池袋「シュヴァル・ド・ヒョータン」シェフ

日本各地を訪れる中で生産者さんの想いに触れ、市場には出回らない魅力的な食材と出会うことがあります。そういった食材を「おいしさ」と共にお客様に伝える。それが料理人の役割だと思います。

レストランと総菜店の連携で、食材ロスを削減

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池袋駅周辺の喧騒を離れた閑静な街並に佇むフレンチレストラン「シュヴァル・ド・ヒョータン」。日本各地の食材を活かしたフレンチが気軽に食べられると評判の、地元住民に親しまれるレストランだ。

シェフである川副藍さんは、今年新たな挑戦を始めた。レストランの向かいに惣菜を提供するテイクアウト専門店「ペッシュ・ド・ヒョータン」をオープンしたのだ。この惣菜店とレストランが連携することで食品ロスを削減することに成功しているという。

「これまでも、野菜の切れ端を集めてスープを取ったり、カブの葉をパウダー状にして盛り付けの彩りに使うなど、食材を大切に使う工夫をしてきました」

このことは、料理人の基本的な姿勢であって、特別なことをしている訳ではないと言う。ただ今回、惣菜店を始めたことで、今までよりさらに廃棄を減らすことはできていると続ける。

「例えば、魚の身を焼いてレストランで提供し、アラでだしをとって、惣菜店で出すテリーヌを固めるのに使ったり、アイスクリーム菓子を作るときに出る卵白でマカロンを作り、お惣菜店で提供したりしています。

レストランで子羊のラムラックを作るために切り落とした骨と肉は、煮込むと旨味が出るので、惣菜店用に調理して『子羊の肉じゃが』にしています。羊肉はあまり馴染みのない方が多いのですが、肉じゃがにすることで手にとっていただきやすく、リピーターの多い人気商品になっています」

これまでは賄いで食べるしかなかった食材が、お惣菜店の人気商品として活かされるようになった。逆に、お惣菜店の商品がレストランで有効活用されることもある。

「惣菜店でラタトゥイユが人気なので、レストランでもお肉料理の付け合わせにお出しするようになりました。惣菜店で多めに作った商品をレストランでアミューズ・ブッシュとして使うこともあります」


生産者に会うことで、食への学びが深まる

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「食を大切にしたい」という川副さんの思いは、実際に生産者に合うことでより深くなっているという。お店で使う食材のほとんどを個人の生産者から仕入れており、時間の許す限り全国各地の生産者を訪れている。

「柿は奈良県のこの方、魚は千葉県いすみ市の漁師さん、という風に食材ごとに生産者さんにお願いしています。いすみ市の伊勢海老漁は人手が必要なので、乗船させてもらったり、網から魚介を外す作業を教えてもらいます」

川副さんが生産者の訪問を始めたのはおいしい料理を作るために、おいしい食材を手に入れたいというシンプルな理由だった。

「段々と生産者さんとの関係性ができていって、料理人としても経験を積む中で、生産者さんの役に立てることは何かを考えるようになりました。

獲れすぎたお魚を貰ったり、熟れてしまって出荷できない果物を買い取ったり、生産者さんにおすすめされた食材は、絶対に断らないようにしています。生産者さんと、お互いに幸せな関係を築くことが大切だと思っています」

生産者の想いを消費者が知ることは重要だが、彼らが直接交流することは難しい。だからこそ、料理人がその架け橋の役割を果たさなければならないと川副さんはいう。

「生産者さんは、食材がどう使われているか、お客さんの反応をとても知りたがっています。だから、新しいメニューができたら生産者さんにお伝えしますし、お客様からのお褒めの言葉や感想をお送りすると、すごく喜んでもらえます」

日本全国に素晴らしい生産者がいる。しかし、流通に乗せるのが難しかったり、食べ方が知られていないために活かされていない食材があるという。

「かぼちゃのツルはさっとソテーしたり揚げたりすると、とてもおいしいんです。でも、流通の問題で市場に出回っていません。そういうものをお出しすると『ツルって食べられるの?』と、お客様がとても興味を持ってくれます」

また、自身が身につけたフレンチの手法を利用して、捨てられてしまっていたかもしれない食資源を活用したこともある。

「長野県佐久市の鯉の生産者さんを訪問した時、鯉を血抜きをする際に血が捨てられていたんです。

私が、鯉の血を使ってブーダンノワール(血を使ったソーセージ、一般的には豚の血を使用する)を作れるのではないかと思い、それを鯉のカルパッチョに添えるようにしたところ、『そんな使い方があるなんて』と生産者さんにとても喜んでもらえました。料理の工夫次第で様々な食材を活かすことができるのではないかと思います」


家庭の食卓で「食のありがたさ」を感じてほしい

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川副さんは料理を提供する際、生産者のストーリーをお客さんに伝えるようにしている。そのストーリーをお客さんも料理と一緒に楽しむ。これは、常連客との信頼関係があるからこそ、できていることだという。

「このお店を始めたのは、池袋駅周辺に落ち着いて食事ができるレストランが少ないと感じていたので、自分が通いたくなるお店を作ろうと思ったからです。今ではお客様の8割が常連さんで、いらっしゃったら『おかえりなさい』とご挨拶することもあるくらい、お互いに安心できる距離感が作れていると思います」

そんな関係性があるからこそ、一般には知られていないような食材にも挑戦することができる。川副さんは「タカッパ(タカノハダイ)」という魚をメニューに入れたことがあるという。

「タカッパは真鯛と一緒にたくさん水揚げされるのですが、競りに出しても安価しか付かない漁師泣かせの魚です。でも、フレンチのソースと絡ませればおいしく召し上がっていただくことができます。

常連さんに『地元消費しかされない魚なんです』と説明してお出しすると、定番のものよりも喜んでいただけます。これからもっと料理の技術を向上させて、食材を知ることで、挑戦する機会を増やしていきたいですね」

一般的には見向きもされない食材に着目し、おいしい料理として活かそうとしている川副さん。そんな彼女が「食の大切さ」を最初に学んだのは家庭の食卓だったという。

「母から食について教わったことが大きかったと思います。基本的な行儀作法から、食事の時間はテレビを消すということ。食材には旬と、走りと、名残があるんだよということを教えてくれました。

子供にとっては苦く感じるものも、大人になったらそのおいしさが分かるから食べなさいと言って何でも食べさせてくれたから、食べることが好きになったのかなと思います。食品廃棄などの大きな課題に取り組むためには、まずは『食べること』の基本的なありがたさを感じることが大切なのではないでしょうか」

将来は、故郷であるいすみ市で、地産地消の取り組みや子供達への食育にも貢献したいという夢を持っている。

私たち料理人の存在意義は、自然の恵みの大切さをお客様に伝え、素材のおいしさを料理の技術でさらに昇華することだと思います。それができた時に料理人でよかったなと思いますね」


■プロフィール

川副藍(かわぞえ あい) 1981年、千葉県いすみ市生まれ。東京女子大学卒業後、金融企業に勤務。退職後、ル・コルドン・ブルー東京校にてフランス料理コースディプロムを取得。都内レストランでの修行を経て、2012年に夫と共にフレンチレストラン「シュヴァル・ド・ヒョータン」をオープン。2019年にはテイクアウト専門店「ペッシュ・ド・ヒョータン」をオープンした。日本各地の生産者を訪れ、故郷であるいすみ市の食材の魅力を伝える活動にも積極的に取り組んでいる。

取材日/2019年11月