#27 猪の炊いたん
篠原武将 / 銀座しのはら
今回の主役は、銀座しのはらの篠原武将さん。
3年前に滋賀県から東京銀座に進出するやいなや、国内外のグルマンが殺到し、わずか1年で食べログ総合TOP5の常連になるなど、東京の顔となった。
銀座で人気の日本料理と聞くと、敷居が高そうに感じるが、そのお店は大きな声が響き渡り、笑顔にあふれ、敷居の高さを微塵も感じさせない。料理はおいしくて当たり前、それ以上のものがここにはある。
その人柄でよそにはない一体感をもたらす、篠原さんの料理を常連客はこう表現する。
お腹いっぱい食べても・・・「疲れない」料理
そんな篠原さんがもっとも大切にしていること
「場の空気を愉しんでもらうこと。そのためのお手伝いが料理。
愉しんでもらえるならば、それは料理でなくてもよい。」
お客さんに愉しんでもらうためには手段を選ばない、その心遣いが愉しい空間、「疲れない」料理を生み出している。
そんな篠原さんが作る未来へ遺すべき作品作り。
まず、どうしても会っておきたい人がいた。
――大切な家族
料理人だった父に憧れて料理の世界を目指した篠原さん。
幼い頃に父が作ってくれた、ウエディングケーキのような三段の誕生日ケーキや運動会とは思えない伊勢海老の入った豪華なお弁当・・・家族への愛情がたっぷりの父の料理は「しのはら」の料理の原点。
そして、父の料理の象徴と言えば鍋。
しのはらのコースの最後も必ず鍋を出している。
ひとつの料理をみんなで分かち合う鍋料理は、なによりもお客さんの「愉しい」を求める篠原さんの料理の原点になっている。
そしてもうひとつ、作品には生まれ故郷のこの里山の景色を料理に仕立てようと決めた。
篠原さんが目指すのは、風景が想起される料理。
例えば葛の葉。
自然の葛の葉は3つ同じ形が合わさって1つの葉を作っているが、日本料理ではその3つをバラバラにして上に魚などをのせて使うのが一般的。
しかし、篠原さんは、自然のままの形が美しいとあるがままの姿で使う。
自然にあるがままの姿の美しさや想像力をかきたてるワクワク感。
里山の景色をあるがままに切り取り、愉しんでもらいたいという一心で皿に盛り付ける、おしつけがましさとは無縁の素朴で、誠実で、丁寧な料理。
これこそが「疲れない」料理と言われる所以。
そうして完成させた未来へ遺すべき作品は、里山の恵みをふんだんに詰め込んだお鍋だった。
主役はイノシシ。具材はイノシシの大好物の根菜、まつたけ、栗。
根菜は全て皮つきで。
イノシシは滋養強壮に良いと言われるが、根菜を皮ごと全部食べるから。
そんな自然から学んだ、生命力の強さも作品に取入れた。
誰もが作れてこそ、未来へ遺すべき一皿。レシピはいたってシンプル。
昆布・鰹のだしに薄口しょうゆと酒を加え、根菜、きのこ、肉の順に一緒に炊くだけ。
なじみのないイノシシ肉でも家庭で簡単に食べられることを伝えたかったと話す篠原さんが教えてくれた、イノシシ肉をおいしく食べるポイントも簡単。薄く切る。それだけ。
最後に篠原さんは「疲れない」料理の秘密を教えてくれた。
「みんなが愉しんで笑顔で笑ってごはんが食べられると、消化も良い。だから、なにを食べても美味しく感じる。何を食べるかというよりは誰と食べるか。」
「何を食べるか」に固執することなく、お互いを思いやり「愉しく食べる」を続けることが、未来の食を豊かにしてくれるということを教えてくれる一皿でした。
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