#28 天丼
志村剛生 / 板前てんぷら成生
今回の主役は静岡に店を構える、板前てんぷら成生の志村剛生さん。
志村さんの料理人人生は留学先のシドニーでの皿洗いから始まった。帰国後、焼津市内の割烹に入店。そこで研鑽を積むうち、天ぷらが素材のポテンシャルを引き出す究極の調理法であると確信、2007年に板前てんぷら成生を静岡市にオープンした。
志村さんに天ぷらの師匠はいない。
独学を基に試行錯誤を重ね、今や予約困難なお店となったその理由を紐解いていく。
開店と同時に客に披露したのは、かつお。
このかつお、ただのかつおではなかった。
さかのぼること2時間半前、昼の営業を終えた志村さんは片道30分をかけて、焼津の魚屋を目指していた。
「岸からほんとに何分かの近海のかつお、このタイミングにしかない味がある。それを今日の夕方のお客さんにだしたい。“今日”出す価値のあるかつお、“明日”では意味がない。」
お店に戻ったのは、開店時間のわずか15分前。
お店に来てくれるお客さんのために志村さんは“今日”にこだわる。
志村さんの天ぷらの大きな特徴は衣の薄さ。
その秘密は、ひとつは粉を振るって空気を含ませること。
もうひとつが油の温度。今まで天ぷらさんが使ってきたような「高い温度は必要ない」と志村さんは断言する。
そんな志村さんの未来へ遺すべき作品作り。
いつもの通り、当日に仕入れに向かう。
まずはサスエ前田魚店。
仕入れたのは前田さんが急遽用意した、焼津で上がったばかりのかます。
次に向かったのは、桑高農園とファームカノウ。
4色の人参、麻機蓮根を仕入れた。
「地のもの、その日とれたもの“今日”の食材を一皿にしたい」
こうして志村さんは静岡の生産者の魂と誇り、そして“今日”を盛り込んだご馳走、天丼を完成させた。
ご馳走という言葉は、自らの足で食材を集め、客に食事などをふるまい、心からもてなすことを意味する。
志村さんが未来に遺したかったのは、地方の料理人のあるべき姿。
自らの足でまわれる範囲の生産者たちと深くつながり、彼らが手塩にかけた心づくしの食材を最高の技術で揚げ、ふるまう、志村さんの日常そのものを具現化したご馳走の一皿だった。
築き上げた信頼関係、自らの足で集めた食材、そして“今日”しか味わえない味、たくさんの人の想い、働きでおいしいが生まれていることを教えてくれる一皿でした。
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