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#11 鶏スープ 海と大地の恵

徳岡邦夫 / 京都吉兆

今回の料理人は、和の重鎮、京都吉兆の総料理長、徳岡邦夫さん。

創業昭和5年。徳岡さんの祖父に当たる湯木貞一が大阪で小さな日本料理店を開いたのが始まり。吉兆は今や、誰もが知る日本を代表する高級老舗料亭として現在全国に5店舗を展開している。

選び抜かれた食材が丁寧な仕事を施され、器をいう最高の衣装を身にまとう、これぞ日本料理という吉兆の料理。

味の要となるだしの取り方にも吉兆ならではのこだわりが。
鰹節はその都度削り、惜しみなく使う。
すべてはお客様のために、細やかで丁寧な仕事を積み重ねる。

吉兆流の料理哲学は、料理以外の場所にも。
玄関番を務めるのは、RED U-35の最年少ファイナリストにもなった若手料理人。なぜ、彼がここに。

「料理は自然の営みの中の一部。自然の流れを感じることは、料理をする上で必要なこと。一年通じて庭で、植物の世話をすること、季節の移り変わりを体感することで、自然の中の輪廻や移り変わりを感じられる」

料理は理(ことわり)を料る(はかる)と書く。
自然の営みを体で覚え、理をはかる、そうして吉兆の料理は生まれるのだ。


そんな徳岡さんが作る未来へ遺すべき一皿。

まず、手にしたのは鶏、丸ごと1羽。
人類全体に向けて、求められるような料理にしたいという想いを込めて徳岡さんは、世界中で宗教関係なく食べられている鶏を選んだ。

鶏に塩をまぶし、臭みを抜く。
下処理を終えたら、鍋に入れ、昆布で取っただしを加えた。

通常、日本料理のだしは昆布のグルタミン酸とかつお節のイノシン酸という異なるうまみ成分を掛け合わせることで相乗効果を引き出すが、今回、徳岡さんは、あえてかつお節を使わず、鶏由来のイノシン酸で旨味の相乗効果を引き出すことに挑戦した。

そこにはこんな思いが。

続いていること、継続というのは簡単ではない
そのためには、どんどん革新していく今までずっと続いてきたものを大事にしながら、その中で今に適応していく

その革新の先には、世界を見据えている。
徳岡さんの原点に、その理由があった。

吉兆に生まれ、料理に囲まれて育った徳岡さんは、料理の道ではなく、音楽の道に憧れる。親族の大反対を受け、悩んだ末、向かったお寺で2ヶ月間の修行生活。

そこで芽生えた想い。
自分が吉兆を継ぐ。やるのであれば、世界に通用する料理人になりたい。
38年その思いで料理を続けてきた。


日本料理の伝統的な調理法を変えて挑んだ作品。
丁寧にアクをとった鶏のスープには調味料は何も加えず、野菜だけを加えて仕上げた。

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さらなる旨味と自然の塩味を加えるために、浅く昆布じめしたカニ、クエ、トロを加えてさっと火を入れ、鶏の肝を燻製して作ったソースでいただく。

自然のやさしさ。食材の甘味。
滋味を超えた、まさに自然のものをそのまま頂く一皿。

世界を志した原点に立ち返り、徳岡さんが作り上げた一皿は、自然のうまみそのものだった。

変わらないおいしさをいつまでも遺し続けるために必要なこと、それを教えてもらった一皿でした。

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