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#21 地球

浜田統之 / 星のや東京

大都会東京のど真ん中、オフィスビルの谷間にそびえたつ、日本旅館「星のや東京」。その厨房で食を取り仕切るのが、今回の主役、浜田統之シェフ。

実は、浜田シェフの専門は「和食」ではなく「フレンチ」。

2年に一度開催されるフランス料理のワールドカップ、ボキューズ・ドールでは、2013年に日本人最高位の3位に輝いた。しかし、その快挙からさかのぼること8年、初めて挑戦した2005年の大会では24ヶ国中12位と屈辱を味わった。

「自分の料理は真似事でしかなかった。日本人ならではの着目点、自分にしかできない新しい発想がないと世界では戦えない」

挫折を経て目を向けるようになったのは、木の実に野草、魚貝。

「牛も豚も鶏も人間の手が加わっている。今、自然のまま残っている、魚、野草、山菜。こういった日本の良さを使って、フランス料理の技法を使って、フランス料理以上にしてやろう」

こうして浜田シェフは自然の恵みをベースにした新しいスタイルの料理“Nipponキュイジーヌ”を確立した。



今回、そんな浜田シェフが完成させた衝撃の作品は「地球料理」
山と海を掛け合わせたその作品は二人の盟友と作り上げたものだった。

地球料理の主役は深海魚。
一人目の盟友、魚のエキスパート、サスエ前田魚店の前田尚毅さんが用意したのは金目鯛。臭みを取るために内臓をとりだした後、天日干しにするのだが、「自然のままを生かして欲しい」と浜田シェフを信じ、あえてうろこをのこしたまま、丸ごと干した。

もう一人の盟友は陶芸家、青木良太さん。
浜田シェフは、地球料理にふさわしいお皿を依頼した。

数日後、浜田シェフは山にいた。
狙っていた山の食材、ウワミズザクラが時期を迎えたのだ。
自然のままの食材の短い旬を逃さぬようにベストタイミングで収穫した。

毎年山を訪れ、自然の食材と向き合う浜田シェフ。そこにはこんな信念が。

野草とか山菜は縄文時代から食べられている。何千年も前からあるものを生かすということは、誰かがやっていかないと絶えてしまう。

浜田シェフが未来へ残したいと話す「野草や山菜」は自分が生えたいところにしか生えてこない。だから食材自体がもつパワーが格段に違う


――― あの依頼から一ヶ月。
完成したお皿が届いた。
“天海の皿”と名付けられたその皿。

「下には宝石が潜んでいます」

という青木さんからのメッセージが添えられていた。

こうして、「海」「山」「皿」、三人の想い、全てがそろった。
料理のタイトルは「地球」。

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宇宙から地球を見た風景をそのまま鍋に映し出した。

鍋の底には富士山の溶岩。
その上に直当たりを防ぐための朴葉を敷き、金目鯛をのせる。
内臓を抜いた空洞に野草を詰め、桜えびのひげと足、実山椒で香りづけ。
産卵期で脂が落ちてきた金目鯛の脂を補うため、熊のラルドを朴葉に塗り込み、ふたをしたら、ウワミズザクラやクロモジなど香り高い6種類の野草で包み込み、炭火でじっくり一時間、食材の水分のみで蒸し上げる調理法で完成させた。

そしてこの、作品にはもう一つの仕掛けが。

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浜田シェフが電気を消した途端、お皿に青く浮かび上がった光。
青木さんがお皿の中に映し出したのは、深海400mで金目鯛が見た景色だった。

「自然のものには代替がない」

人間の手が加わっていないものだけが持つパワー、人の手では作りだせない唯一無二の味を未来へ遺したい、その強い意志を感じる一皿でした。


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