#39 鮑ステーキ
髙木慎一朗 / 日本料理 銭屋
金沢の日本料理の名店、銭屋。
ミシュラン二ツ星が輝くこの店の二代目の主が今回の主役、髙木慎一朗さん。
加賀百万石と称されるほど、豊かな農水産物に恵まれ、独自の発展を遂げてきた金沢。そんな金沢ならではの美味を存分に味わえる店、それが銭屋。
メニューはおまかせのみ。
だが、その内容はお客さんごとにアレンジされている。
「例えば、今月3回目の地元のお客さんと東京から初めてこの店に来たお客さん、料理が同じである必要がないというのがコンセプト。一組ごとに器から何から全てコーディネートしている」
常連客も太鼓判を押す、伝統と技術でお客さんの想像を超える料理。
そのためには努力を惜しまない。
何軒も市場をまわり、最良を求める。
これこそが文字通り、ご馳走(自らの脚で食材を集め、客をもてなすこと)なのだ。
髙木さんは未来へどんな一皿を作り上げるのだろうか。
未来へ遺すべき作品作りに取り掛かった、髙木さん。
なぜかコックコートを着て、肩にはBoss Takagiの文字が。
実は髙木さん、4年前、仲間と食のベンチャーOPENSAUCEを立ち上げたのだ。
コンセプトは“レシピの継承”
この日作っていたのは、たまねぎやしいたけを炒め、レモンの果汁をたっぷり、ライムで香りづけをした東南アジアの料理。
実はこれ、OPENSAUCEの社長、宮田さんが幼い頃住んでいたタイで母に作ってもらっていた思い出の味。
「このレシピ自体、このまま同じものをつくるということもひとつなんですが、いろんな人がまたアレンジを加えて、レシピが改良されていくことで、その料理のDNAがいろんなところに派生していく。これがひとつの料理文化の継承だと思う」
髙木さんはレシピを継承し、食文化の発展に貢献するために、
この他にも金沢の自然を生かした洋酒の開発や耕作放棄地をどうやって有効活用していくか、立食パーティにふさわしいグラスや食器の開発など、日本料理の枠を飛び出し、食を起点に様々なことに挑戦している。
自分は何を受け継ぎ、何を遺せるだろうか。
そうして悩み抜いた末にたどりついた答え。
―受け継ぐべきは、父だった。
厳しかったという父親には一度も、後を継げとは言われなかったが、導かれるように料理の道へ。料理人として父と並び立つことはかなわなかったが、父が最期に作った料理、おでんは、髙木さんにとって忘れられない味となっている。
作品の主役に選んだのは、鮑。
日本料理にとって鮑は、古くから使われてきた食材。
先代も愛した鮑は肝を外し、水と昆布と酒で一緒に一晩煮る。
しょうゆを加えて味をととのえた。
レシピはない。
舌の感覚だけで代々この味を引き継いできた。
その鮑をバターを溶かしたフライパンで焼く。
そして塩、こしょうをひとつまみ。
父から受け継いだ不動の組み合わせマスタード、レモン、クレソンを添えて完成させた。
なぜ、この一皿だったのか。
「この料理は先代の父が40年くらい前に考えた料理。
日本料理というのは基本的な技術、基本的なものにのっかって、それを習得して、その時代時代にその人の感性で新しい料理を作っていく。
未来を考えた時、僕らは受け継いだものを未来へ遺すべきだと思った」
今ある食文化は全て、誰かがポンっと作ったものではない。
長く受け継がれたものがあるからこそ、新しい食文化が生まれ、それがまた新しい食文化を生む。そんな温かいつながりを感じさせてくれる一皿でした。
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