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#26 かしわ

池川義輝 / 鳥しき

焼鳥、それは山火事から偶然生まれたと言われ、最も古く、最もシンプルな鳥の調理法。

肉を切り、串にさし、焼く、誰もが簡単に真似でるはずなのだが、この男のそれは違うと誰もが言う。今回の主役、鳥しきの大将、池川義輝さん。

2010年にはミシュランガイドで一ツ星を獲得し、大衆料理だった焼鳥を世界に誇る日本料理に押し上げるなど、焼鳥を芸術の域まで高めたと言われる池川さん。誰もが知っている料理を感動の域にまで高めるのはそうたやすいことではないが、池川さんはいとも簡単にやってのける。

彼の作る焼鳥は何がどう違うのだろうか?
池川さんがその手の内のすべてを明かしてくれた。

焼鳥の奥義① 鶏を選ぶ
まずは鶏。好んで使うのは福島の伊達鶏。
池川さんが考える焼鳥に適した鶏は、ツヤと皮の張り方が違う。
走っていない鶏は、足が細く、皮の張りもツヤもない。

焼鳥の奥義② 鶏を捌く
丸の状態から部位ごとに捌いていくのだが、切るのではなく、パーツを剥がすイメージ。体温でどんどん悪くなっていくため、肉には極力触れない。素早く正確に、骨と繊維質のところを見つけてバラしていく。

焼鳥の奥義③ 状態を把握する
肉を剥がしながら、その肉の個性と状態を見極める。
例えば、健康な鶏は地面にある餌を食べようとすることで、顔の近くに餌を置いて育てられた鶏に比べて、首に良質の脂がのる。そのような差を見ることで、健康状態やどうやって飼われてきたかを判断する。

焼鳥の奥義④ 串を打つ
野菜などの繊細な素材は丸串、肉は縮んできた時に中心がずれないようにしっかりとした角串と串を使い分けている。

焼鳥の奥義⑤ 炭を選ぶ
営業開始の1時間半前、焼き台をととのえ、炭に火を入れる。
炭は最高級で知られる、紀州備長炭。
他の炭に比べて火が長持ちし、火力が非常に強い。

焼鳥の奥義⑥ 火を起こす
種火となる炭にガスで火を入れ、焼き台へ。
その上に前日使った炭を敷き詰め、さらに新しい炭を置いて火を起こす。
20分後、焼き台の炭を割り、隙間なく並べ替えて炭を詰めていく。
隙間なく詰め込むことで火力を維持し、肉汁を逃さない。

そして、タレ、鶏油、酒、だし醤油、オリーブオイルなどが入った魔法の壺を駆使しながら強火の直火で焼き上げる。


これが池川さんの焼鳥の全て。
全てを公開してもなお、誰にも真似のできない焼鳥。


今回、池川さんが作る未来へ遺すべき作品は、もちろん焼鳥。
作品作りの前に訪れたのは、池川さんの焼鳥に欠かせない紀州備長炭の里、和歌山県日高川町。

炭づくりは、ただ木を焼けばいいというものではない。

原木となるウバメガシの調達から始まり、窯にたくさん入るよう、曲がった木には切目を入れて楔を打ち込みまっすぐにする先人の知恵。
火を入れてからも、口焚き、炭化、ねらしと10日ほどかけてようやく窯出しへたどり着く。

高級と称される紀州備長炭には、多くの手間暇と先人たちの知恵と工夫が詰まっている。

日本の伝統文化である炭を使って作る焼鳥。皆さんの思いや文化というものを背負って、それを形にして未来へ遺していきたい」

そうして完成させた、池川さんの未来へ遺すべき一皿は紀州備長炭で焼いたかしわだった。

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「昨今、炭を作る職人はどんどんいなくなってきている。もしかしたら、100年後には炭がなくなって、ガスや電気でしか焼鳥を焼けない時代が来るのかもしれない。しかし、香りや火力、炭がなければ、この味は出せない。これから先も、炭で焼く焼鳥文化を遺していきたい

ガスや電気にはできない、炭だからこそ実現できるおいしさが日本の焼鳥にはある。そして、命を削ってたどり着いた手の内の全てを簡単に教えてくれる池川さん。それは、おいしさを未来に遺すために本当に大切なものは、食材だけでもなく、目に見えているものだけでもないことを知っているからだろう。

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