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#33 蛤椀

長谷川在佑 / 傳

今回、未来へ遺すべき作品作りに挑戦するのは、世界のベストレストラン11位、接客世界一の称号アート・オブ・ホスピタリティ賞を受賞した「傳」の主、長谷川在佑さん。

新国立競技場にほど近いところに店を構える傳。
壁という壁、柱という柱は店を訪れた世界のトップシェフ、スターシェフのサインで埋め尽くされている。

和食の型を知り、それを大切にしながらあえてやぶり、傳を世界有数の料理店に押し上げた長谷川シェフ。その作品を見れば、いかに型破りか、手に取るようにわかる。

最初に供される料理は、最中。
甘味として出すのは型通りだが、傳では一品目に登場。その中身はフォアグラの西京漬け、いぶりがっこ、干し柿、これをもって八寸の代わりとする。

お次は傳のシグネチャーディッシュ、その名も傳タッキー。
長谷川さんの遊び心を象徴する一品。
箱の中身はもちろん、フライドチキン。
なのだが、ただのフライドチキンではない。手羽の中に香箱がにともち米が詰まっている。

フォトジェニックなサラダも、炊き合わせのごとく野菜それぞれに適した火入れ、味付けが施されている。

型があるからこその型破り。
創作料理ではないのが傳の料理。

そしてもう一つ、長谷川さんには店を始めた当初から変わらぬポリシーがある。

いたずらに高級食材を使わない

昨今ありがちな高級食材をふんだんに使い、その分お代に上乗せする流れを良しとせず、それよりも、技術とアイデアを駆使して素材のポテンシャルを最高潮に高め、ゲストを楽しませることを第一義とする

しかし、型破り、目新しいことに対しては、料理人の中からもいろんな声があるが、長谷川さんはこう話す。

「自分は日本料理を好きになってもらうきっかけを作りたい。日本料理という伝統、古いものを重んじるものがあっても、なかなか入り込めない。初めて日本料理を食べた人たちがもっと深く知りたいと思えば、もっと深く知れるお店に行けばいいと思う。傳は日本料理の入口

その言葉を象徴するように、板場の風景も日本料理の店では革新的。
傳のフィロソフィーを学ぼうとする世界中からやってきた料理人が切磋琢磨している。長谷川さんの右腕、望月さんを筆頭に女性の料理人も多い。


そんな長谷川さんが作った未来へ遺すべき一皿は、お椀。

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ハマグリで取っただしに、たけのこ、木の芽を添えたシンプルなお椀。
なぜこの一皿だったのか。

「実はこのお椀、食材は全て日本のものではない

日本料理の場合は、日本で作って、日本の食材を日本人がという一つの形をとる。未来へ遺すと考えた時に、日本の食材だけで日本料理を表現するのはもったいないと思った」

「世界中いろんな場所で料理を作らせてもらうが、その場所その場所にだしを引けるものがたくさんあって、それを日本料理の技術を使って料理をする。食材もそうだし、自分もいつまで料理をしていけるかわからない。実は、今日のお椀を作ったのは自分ではなく、香港出身のジョイさんなんです」

「自分が遺せるものとして、自分が作ったものではなく、私たち日本人の感覚、気持ちを持ったもの、世界各国どこの人でも構わない、男性でも女性でもかまわない、そういう気持ちで作ったものによって、日本を感じてもらいたい。そうすることで、世界中から”日本料理”ができてくるんじゃないかと思う。日本料理はもう日本だけのものではないのではないか」

今、世界中の若き料理人が日本料理にあこがれ、技術はもとよりその心、本質まで吸収しようと熱心に学んでいる。そう遠くない未来にそんな料理人が持ち帰った種が新しい日本料理を生み、私たちを驚かせてくれるのではないか、そんなわくわくする未来を想像させてくれる一皿でした。


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